Opinion : 良し悪しの尺度をいろいろ持つということ (2021/5/10)
 

「もっといいクルマを作ろうよ」といえば、トヨタのモリゾウ社長 (あえてこう書く) が、何かにつけて持ち出しておられる台詞であるらしい。でも、「いいクルマ」の尺度って、万人に共通するものじゃない。

クルマ関連の媒体で仕事をしている書き手や編集者なら、「いいクルマなんていったら、運転して楽しいクルマに決まってる」となるかもしれない。でも、それはあくまでクルマ好きの視点であって、誰もがそう思うかというと、それは違う。

すんごい極端な例を出せば、農家の軽トラが相手なら「運転して楽しい」も何もあるものかと。丈夫で壊れなくて安価に維持できることがいちばんである。いわゆる「黒いバンパーの営業車」も似たところがありそうだけど、こっちは高速道路を安定して爆走できないと許してもらえないか (ぉ


クルマはクルマでも、鉄道車両はどうか。これだって、人によって視点が違えば、尺度も重視するポイントも違う。ある人がベタ褒めする車両でも、人が変わればボロクソにいわれることもある。趣味的にはなーーーーーーんの面白みもない車両でも、実に目的に適っている… そんなこともあるだろうし。

仕事の関係もあり、なるべくいろいろな路線、いろいろな車両に実際に乗ってみるようにと心掛けているけれど、なにせ相手が多すぎるので、完全制覇とは行かない。でも、自分が実見した範囲でも、それぞれ個性があって面白い。

ただ、それをどう評価するかは難しいところ。相手かまわず同じ評価軸を押しつけて、たとえば「食堂車がないと許さん」「ゆとりのスペースがないと許さん」みたいなことばかりいってるのは、ちと安易なんじゃないかと。

趣味人の間では、たぶん評価レベルが低そうな 701 系という車両がある。でも、見方を変えれば、製造コストを抑えるための工夫がいろいろ見られるし、しかも本気出したときの走りっぷりは素晴らしい。実は、エンジニアリングの観点からすると、なかなか面白い車両なのである。

ぶっちゃけ、ロングシートのせいで趣味人ウケしない、というあたりが真相では。でもねえ、それだって「特定方面からの価値観の押しつけ」でしょ。それを正当化するためにいろいろ理屈をこねてみても。

で。こういう話ばかり書いていると、ブレーキが効かなくなるから、これぐらいにして。

要は、多元的な尺度でモノを見ることができれば、いろいろな「いい○○」像が出てくるだろうと。そうなるためには、幅広くアンテナを張ったり、さまざまな分野に好奇心を持って接してみたりすることが大事なんではないか。

馴染みのある立場や視点、馴染みのある世界を固守していれば安定はするけれど、殻の中に閉じこもってしまうことになりがち。人間、歳を食ってくると往々にして保守的になって、新しいことに手を出したり、新しい分野に関心を示したりするのが億劫になってしまうもの。

私事になるけれど、その点、父方の祖父は好奇心を失わない人だった。何か新しいスポットができたというと、ホイホイとフットワーク軽く出かけていってしまうというので、周囲で語り草になっていたぐらい。対象が何かはともかく、フットワークの軽さ、好奇心の強さ、新しがり屋の部分については「かくありたい」。


そういう見地からすると、海外のエアショーや展示会にお出かけするのは、自分で自分に刺激を与える結果になっている部分がある。ところ変われば品変わる。知らない国に行けば、知らないやり方で物事が動いている。いい・悪いではなくて、そういう世界があると知ることが重要。

インスタントに結果が出るものでもなかろうけれど、そうやっていろいろな経験、刺激を自分の中に取り込むことが、いずれ、特定の尺度をガチガチに固守しないで、多様な「いい○○」を評価したり、生み出したりする役に立つんじゃないかなと思ってる。

もっとも、そんなめんどくさい話は抜きで、「行くと面白いから海外に行く」あたりが真相ではあるのだけれど。でも、その「面白い」で「知らない世界を見る刺激」であるのは事実。知らない世界が刺激になるかどうかって、大事な分かれ目だと思う。

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