Opinion : 成功と失敗 (2021/6/7)
 

小学生の頃に、珊瑚海海戦について書かれた本を読んでいたら、「日本海軍にとって戦術的な勝利ではあったが、戦略的には敗北であった」という記述があって、「へー」と思った。

そこで「なんっつう小学生だ」というツッコミはなしで。
ちなみに、ミッドウェイ海戦については「レーダーがあれば多少は違っていただろうに」と思った記憶があるから、幼少の頃から C4ISR 好きの萌芽はあったのかも。

確かに、沈めた敵艦の数や陣容からすれば日本側の勝ちではある。でも、海からのポートモレスビー攻略を実現できなかったわけだから、作戦目的は達成できていない。米側から見れば、攻略を阻止できたわけだから、戦略的には勝ちとなる。なるほど。

もちろん、すべての海戦がこういう食い違いにつながっているわけではなくて。たとえばミッドウェイ海戦は、米側から見れば戦術的にも戦略的にも勝ったといえる。

戦闘を仕掛けるのは、それによって何かを達成したいからで、その何かを達成できなければ、全面的な成功とはいえない。戦闘における戦果は、その何かを達成するための手段ではあっても、それ自体が目的じゃない。すると、戦果だけ見て成功・失敗を論じるのは「なんか違う」という話になる。


ビジネスの世界では、「利益を度外視して値下げしたりキャンペーンを打ちまくったりして、確かにシェアは上がった。でも、利益が出ないので事業を継続できなくなった」なんていう類の話が、"あるある" かもしれない。

シェアの獲得って、分かりやすい「戦術的勝利の指標」ではあるけれども、そのために利益を食い潰したのでは、最終的な目標にたどり着けない。

もちろん、「ライバルを全部つぶしてしまえばシッピン総取り、最後は好き放題にできて大勝利」という考えもあり得るけれど。でも、それって「つぶした後に誰も新規参入してこない」って前提よね…

それはそれとして。最近、五輪開催の是非論が賑やかだけれど、反対論の中には「やっても失敗するから止めろ」というのがある。でも、そこでは何をもって「成功」あるいは「失敗」とするのか、という定義が曖昧になっている。

とにかくつつがなく開催できれば成功なのか、日本勢が金メダルを○○個以上取れれば成功なのか、TV 中継の視聴率が○○パーセント以上あれば成功なのか、観客が○○万人以上はいれば成功なのか。はたまた収支が赤字にならなければ成功なのか。

その「成功」あるいは「失敗」の定義を曖昧にしたままで「やっても失敗するに決まっている」と主張するのはズルい。

もともと、「成功」とか「失敗」とかいう言葉だけだと抽象的なところがあって、好き勝手に解釈する余地があるのが問題なのだけど。でも、ここで言葉の定義や用法から書き換えるわけにもいかない。「成功あるいは失敗の定義を明確にしてからモノをいえ」という以上のことは、たぶんできない。

多分、「開催しても失敗するに決まっている」系の主張をする人は、終わった後になって成功 or 失敗が議論になったときに、「○○を実現できなかったから失敗じゃないか」といってゴールポストを動かすような真似をするんじゃなかろうか。

さらに書くならば、開催することで達成できる「何か」だって問題になる。「北京が 2 年後に『われわれ式の統治の優越性』を主張するための材料を与えてしまう事態を避けるためにも、開催が必要」というのは、その一例。


そして冒頭の話に戻すと、「戦術的に勝つ or 成功する」と「戦略的に勝つ or 成功する」の違い、それぞれで達成すべきことを、ちゃんとわきまえておかないとアカンのだろうなと。つまり、戦略的勝利が達成できていないのに、戦術的勝利だけ見て浮かれるなという話で。これもまた、「成功」と「失敗」の定義の問題かと。

つまり、「戦術的な成功」とは手段であり、「戦略的な成功」とは目的である、といいかえられるかも知れない。そして、本来あるべき目的をそっちのけにして、手段に熱中してしまう。上下左右を問わず、よくありそうな話ではある。

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