Opinion : 無人兵器と AI 兵器をごっちゃにするなボケー ! (2021/7/12)
 

昨夜、NHK スペシャルで「NHK スペシャル 2030 未来への分岐点 (5) AI 戦争 果てなき恐怖」なる番組をやったんだそうで。そしてその内容たるや、事前の "お察し" から、さほど外れたものではなかったらしい。

そのこと自体は別段、驚きはない。過去の、日本の報道機関の報道姿勢に基づいて、 (AI の話だけに)「学習と推論」を働かせれば、答えは容易に出てくるから。だから、番組そのものの内容について、あまりグダグダ書くのはやらないことにして。

ただ、報道姿勢とは別のところで、もうひとつ、ひっかかったポイントがある。


それは何かというと、タイトルにあるように「無人兵器」と「AI 兵器」をごっちゃにするなボケー ! という話。なにも件の NHK の番組に限らず、チョイチョイ見られる傾向。

無人兵器がみんな AI で動いているわけではないし、AI を使う兵器がみんな無人というわけでもない。軍事分野で実際に AI がどんな使われ方をしているか、という話は、すでに以前からいろいろ書いているから、その辺の話、自分は一応、承知しているつもり。

でも、どうやら新聞・テレビあたりでは、その辺がこんがらかっているように思える。もっとも、こんがらかっているのか、それとも「人間がコントロールできない AI 兵器の恐怖」を煽るために意図的にごっちゃにしているのか。その辺は、しかとは分からない。ただ、どっちにしても好ましい話じゃない。

しかも、「無人兵器」といっても MQ-1 や MQ-9 がそうであるように、交戦の可否を判断するところでは人間が介在しているものもある。すると「無人 = コンピュータ制御の全自動・全自律」というわけではなくなる。しかし世間一般には、どうもここのところがスルーされていて、「無人だから全自動・全自律」という間違ったイメージが流布していやしないか。そんな危惧がある。

実のところ、AI を使っていない無人システムでも、そこでは何かしらの制御ロジックが機能している。AI を活用すると、そこに「学習に基づく推論や進化」といった要素が加わってくる。実運用経験に基づいて学習を進めて、動作内容を改良していく話は、たとえば、イスラエル製のウェポン システムでいくつも例がある。

だから、無人システムに AI が加わらないと自律制御ができない、と決まったものではない。AI 抜きの自律化だってあり得る。そういった問題の切り分けをちゃんとやらないで、AI というキャッチーな時事ワードを使って恐怖感を煽るだけでは、問題の解決にならない。

それに、AI の活用は、なにも自律制御に限った話じゃない。というかむしろ、現時点ではまだ、軍事に関していえば、自律制御以外の分野における活用事例の方が多いぐらいかも知れない。無人化と AI の話をごっちゃにすると、そこのところが不明確になる。

しかも、国連で規制させるとかなんとかいっても、それは各国が規制を遵守するつもりがなければ、有効なものにならない。AI の活用をゲームチェンジャーとして位置付けてフル活用する意思を持った国があったときに、果たして「国連の規制」がどんだけ有効なブレーキとして機能するだろう ?


結局のところ、「権力の監視」が「首獲りゲーム」と化しているのと同様に、「文明やテクノロジーの進化に対する監視」は往々にして、「恐怖感を煽って規制を求める」だけのものになっている。テンプレはいつも同じで、変数がそのときどきによって入れ替わるだけ。

もちろん、何の監視も必要ないなんてことはいわない。それだからこそ、DoD の「AI 五原則」みたいな話が出てくる。これは、監視と進化をバランスさせようとするメカニズムが健全に (?) 機能していることの、ひとつの現れ。

もっとも、五原則を定めるだけでなく、ちゃんと守らないと話が始まらないのは当然のこと。

ところが、監視する側が雑な仕事をしていると、結果として監視が監視にならないんじゃないのか。そんな危惧がある。

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