Opinion : ドローン宅配に踊った人々 (2021/8/23)
 

少し前に、Amazon が「ドローン配送開発チームのスタッフを大量解雇」というニュースが流れてきた。「一時解雇」であって「解散」ではないにしても、100 人以上が失職したというから、規模は小さくない。

個人的には「ああ、やっぱり」と「いわんこっちゃない」という感想しかない。


個人的な認識では、いわゆる「ドローン バブル」の引金を引いたのが、Amazon が「プライム エア」をぶち上げた一件だったと思っている。そして毎度の恒例で、この話に飛びついて「ドローンの経済規模がフンダララー」とか「ドローンの規制を緩和しない日本政府はフンダララー」とかいう類の言説が、あちこちで飛び交う仕儀となった。

でもねえ。冷静に考えてみて欲しい。小口配送の荷物をぶら下げた電動式マルチコプターが、そこら辺をブンブン飛び回ってたら、危なっかしくてしょうがない。その、安全に関する懸念が主な理由で、個人的には「ドローン宅配」には否定的だったし、自分が書いたものでもそういう方向性。

それに対して「ドローンの経済規模がフンダララー」とか「ドローンの規制を緩和しない日本政府はフンダララー」の人達がどういう反応を示したかは、容易に想像がつく。でも、「なに、そのうち結論ははっきりする」と思っていたから、いちいち個別に反論して噛みつくようなこともせず、黙って推移を見ていた。

そして実際、「ドローン宅配」が普及する気配は全くないまま、冒頭で書いたような話になってしまった。曲がりなりにもモノになって実績を記録したのは、米海兵隊がカマン K-Max を使ってアフガニスタンで試したやつだけれど、これも今はやっていない。

そもそも、人が乗っていようがいまいが、ペラがいくつ付いていようが関係なく、「飛びもの」の一種なのだから、まずそこでは安全が第一。空の安全を向上させるために、これまでにどれだけの犠牲とコストが払われてきたことか。

無人機の利用が拡大するにしても、それはしかるべき訓練を受けたプロの手に拠らねばならないと思っていたし、今もそう思っている。当然、それに加えて、安全のための配慮も可能な限り講じなければいけない。

そして結局、ドローン バブルは弾けてしまい、無人機に適した分野で、しかるべき訓練を受けたプロがしかるべき使い方をする、というところに落ち着いてきている感があると思う。これでよいのだ。

しかるべき訓練と道具立てを備えた人や組織が、無人機ならではの使い方をするのは良いことだし、それは東京五輪の開会式で実証された通り。小口配送なんぞに使うよりも、ああいう使い方の方が 65,536 倍は良かったのではないか。


もっとも、この「ドローン宅配」で火が点いたと思われる「ドローン バブル」のおかげで、自著でネタにした「新しいものにサッと飛びついて大騒ぎする人」のサンプルを目の当たりにできた。そういう一面もあるので、ネタ収集としては役に立った部分もある。「ああ、この種の人達はこういう行動をとるものなのか」と。

結局のところ、あの手の人達っていうのは、個々のテクノロジーや製品に愛着や思い入れがあるわけではなくて、「最先端の、イケてるものを見逃さない自分」を愛してるだけなんじゃないだろうか。だから、トレンドが変わればたちまち居場所を変える。

そういえば、しばらく前に跋扈していた「これからはテレワーク、人が移動する必要なんてなくなる」論も、「目新しいものに熱狂して、それまでのものを単純に否定する」という点では、同じマインド セット。

たぶん、この手の人達、来年の今頃はまた別の「目新しいイケてる話題」に飛びついて、同じようにして踊ってるんじゃないだろうか。

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