Opinion : マン マシン インターフェイス考 (2021/11/22)
 

先日、列車内での事件発生と可動式ホーム柵の絡みが課題になったときに出た話で、「緊急脱出のために可動式ホーム柵を手動で開ける際の操作は、メーカーに関係なく揃えるべき」という話が出ていた。

それは確かにそうで、「A 社の可動式ホーム柵ではこう、B 社の可動式ホーム柵ではこう」なんて、いちいち利用者に覚えさせるわけにはいかない。しかも緊急時に操作するものだから、いざ必要となってから、慌てて使い方を調べても間に合わない。


メーカーに関係なく、基本的なユーザー インターフェイスが揃っている事例というと、クルマの操作系もある。といっても、ウィンカーとワイパーのレバーが逆、ぐらいのことはあるし、自分もアメリカから帰ってきてから、操作の取り違えをやったことがある (なぜかアメリカでは間違えない。しつこく自分に言い聞かせているおかげだろうか)

ところが近年、クルマの分野もユーザー インターフェイスが揃わなくなってきているように感じる。エアコンまわりは以前から複数の流儀があったけれど、これはまぁ、「すぐに操作しないと命に関わる」系のものではないのでいいとして。問題は、MT ではないクルマに付いている、セレクトレバーの操作。

というと、すぐにプリウスが槍玉に挙がるけれど、なにもプリウスに限ったことじゃない。日産のノート e-Power は、初代と二代目の両方ともレンタカーで借りて運転したことがあるけれど、これらも似たようなもの。ことに二代目の方は、乗り出してからしばらくの間、「えーと、どうやればいいんだっけ ?」とアタフタした。

ポジションの確認は、メーターパネルの中にあるインジケータを見る。これは、普通の AT 車でもやった方がいい類の話だから、いい。ただ、ポジションを変える操作が、前後方向にだけ動くセレクターと、動かし方と、セレクター側面に付いているボタンの操作によって変わる。覚えるまでにはちょいと時間がかかる。

初代の方は、まだしもプリウスちっくで (失礼) 馴染みやすかったと思う。少なくとも、二代目ほどにアタフタした記憶はない。

一般的な AT のセレクト レバーだと、最前部が P、そこから R、N、D、という並びで、ストレートだろうがゲート式だろうが、そこは同じ (両方とも使ったことがある)。だから、側面のボタンを押すか、左右方向の動きを加えるか、という程度の違い。

ところが、プリウスやノート e-Power はそこの法則から外れている。セレクト レバーが常に中立位置に戻ってしまう、なんていうのは枝葉末節の問題で、計器盤のインジケータを見れば済む話。むしろ「どっちに動かすとどうなるか」が車種によって違うことの方が問題じゃないだろうか。

どこかに似たような話があったなと思ったら、HOTAS (Hands on Throttle and Stick) 化した戦闘機の、操縦桿とスロットル レバーに付いているボタンやスイッチの類だった。割り当てなければならない操作はいろいろあるけど、使える操作系の数と動きは限られるから、「どういう場面でどういう動きをさせると、どういう機能を果たす」という組み合わせをいっぱい作らないといけない。

しかも、誤操作は命に関わるだけでなく、大袈裟にいえば国の命運にも関わるもの。だから、間違えにくい、覚えやすい動作にしないといけないはず。実際に戦闘機を飛ばした経験がある人が、現場の立場からシーケンスを組み立てていかないと、きっとムチャクチャなことになるんじゃなかろうか。

もっとも戦闘機の場合、機種転換すればみっちり訓練するから、機種ごとに多少の差異があっても、覚え直しができる。それでも、揃えられるところは揃えるような配慮があるんだろうか。この辺、機会があったら取材して記事にしてみたいやつ。

ところが市販の乗用車だと、車種が変わったからといって、いちいち「転換訓練」なんてやらない。ましてレンタカーだと、現物が出てくるまで、どの車種になるか分からないのが普通。中には「おまかせプラン」みたいなやつまである。

これは「どんなクルマに乗っても基本操作は同じ」という前提があるから成り立つ話なわけで、車種によって基本操作が違ってくると、どうなんだろうと。しかも、自分が所有するクルマなら慣熟のための時間をとれるけれど、レンタカーはぶっつけ本番なんである。

すると、レンタカーに風変わりな操作系のクルマを持ってくるのは止めようよ、という話になりかねない。しかし、レンタカー屋さんの立場からすれば、話題性のあるクルマを用意することも客寄せの一環、という一面があるだろうから難しいところ。


基本的に、セレクトレバーの操作方法が従来のそれと違うクルマは、エレキで動くクルマみたい。プリウスにしろリーフにしろノート e-Poewr にしろ、みんなエレキで動く。従来と違うシステムのものだから、それに相応しい操作系を、新味のある操作系を。という言い分も、まぁ分かる。

でも、エレキで動くクルマが「限られた層が飛びつくアイテム」ではなく、「広く用いられるアイテム」になってくると、なにかしらの統一性は必要なんじゃないだろうかと思う。飛行機や鉄道車両みたいに、ちゃんと転換訓練・慣熟訓練をやるわけではなくて、いきなりマニュアルも読まずに乗り出すことの方が多いのだから。

ただ、業界全体で揃えてよ、と文句をいうだけなら簡単だけど、いざ統一しようとすると、それぞれのメーカーが「うちのやり方で」といいだして、収拾がつかなくなりそうな気はする。

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