Opinion : 広報映像に関する徒然 (2021/12/6)
 

軍事組織 (に限った話ではないけれど) がリリースする広報写真をいろいろ見ていると、もちろんクオリティの良し悪しを感じるところがある。具体的に名指しすることはしないけれども、国や組織によって、「上手にやるなあ」と思わせてくれる場合もあれば、「なんかパッとしないなあ」と思ってしまう場合もある。

COVID-19 のせいで、従来のような「人が集まる広報イベント」がやりにくくなり、代わりにネット配信をやる事例が増えてきた。すると今度は、映像そのものの出来の良し悪しに加えて、映像の品質、配信の品質、といった新たな課題も出て来た。

担当者が頑張って、格好のいい映像、広報に効きそうな映像を用意しても、配信に問題があればぶち壊しになってしまう。ノイズが入ったり、ブチブチ切れたりするようでは、広報効果は台無し。そんな事態が繰り返されれば、「ネット配信を活用しよう」という動きがあったとしても、足を引っ張りかねないのが悩ましいところ。

ただ、これは担当者の意思や能力というよりも、サーバみたいなハードウェアや通信インフラに依存する部分が大きいはずで、有り体にいえば「カネの問題」になってしまう。だから今回はひとまず措いておくこととして。


企業の広報や宣伝なら、製品やサービスを売るとか、企業に対するイメージを向上させるとかいうミッションがある。分かりやすい手近な事例というと、クルマのカタログがそれ。どんな層に売りたいかで、つくりはまるっきり違う。

では、軍事組織の広報はどうか。やはりイメージ向上は大事だけれど、それに加えて人員徴募というミッションもある。それに対して、組織をどう見せることで応じていくのか。そこで意外なほど「お国柄」「組織の体質」が出ているように思える。

米軍がリリースする記事で面白いのは、現場の第一線にいる、いわば「無名の兵士」をさまざまな分野でフィーチャーしたものが目立つこと。それも部隊という組織ではなくて、個人のレベルで。

そして、これはアメリカの習慣だと思うけれど、出身地の情報がセットになる場面が多いみたい。それも、「○○州出身」ではなくて、「○○州△△」と街の名前まで付く。日本だと都道府県止まりのことが多いように思えるけれど、その辺の違いが興味深いところ。

逆に、国によっては個人が表に出ないこともある。中には、イスラエルみたいに保全上の理由で個人を表に出さない事例もあるけれど、それだけだろうか。そもそも、個人をフィーチャーするという考えがないケースも少なくなさそう。「特定の個人だけを取り上げるのは不公平」という考えがあって、個人をフィーチャーしないという考え方もあり得る。

あと、ソフトなイメージを前面に出すのか、逆に「いかにも強そうなイメージ」を前面に出すのか。軍事強国を標榜するような国は基本的に後者なわけで、そうなると、リリースされる広報写真も、それを反映させたものになる。そういう場面で出てくる現場の兵士は、往々にして無表情。

確か、前に自著でネタにしたことがあったと記憶しているけれど。中国かどこかの戦車の写真で、「戦車に誇乗した兵士が一斉に飛び降りる」場面を真正面から捉えたものを見たことがある。勇ましく見せようとする写真の典型例だけど、その手の写真ばかり出されると「はいはい分かった分かった ()」という気分になる。

「本当に強いものを強く見せたい」と「大したことないものを強く見せたい」の 2 パターンが考えられるけれど、どの国がどちらに属するとかいう話を始めると収拾がつかなくなるので、ここではパス。

「強そうに見せる」はもちろん、対外的な抑止、そして対内的な支持獲得 (国民からの信頼感という意味で) を狙ってのこと。さらに、人員徴募への効果も意識していそうではある。つまり「強い組織の仲間に入りたまえ」というやつ。

でも、それが本当に効果があるかどうかは知らない。アメリカの陸軍や海兵隊がやってたような「君の可能性を試してみないか」とチャレンジ精神に訴えかけるようなものの方が、効果がある。ような気もする。国情にも拠るだろうけれど。

ともあれ、この手の「強さばかりを押しつけがましくアピールする映像」ばかり見せられるとゲンナリする。けれども、逆にソフトタッチばかりでも「それって "戦う組織" としてはどうなのよ」と思うわけで、バランスが難しい。


なんだか話が散らかってしまったけれど。広報用のオフィシャルな写真や動画は基本的に、「その組織が、自分のことを周囲にどう見せたいか or どう見て欲しいと考えているか」という意思を反映したもの、と考えていいはず。そういう観点から、映像や記事の傾向なんかを見てみるのは、ひとつの「情報活動入門」として面白いと思う。

そして、他国がこの分野でどんなことを、どんな風にしているかを見ることで、それぞれの国を見る目が肥えてくるかも知れない。また、自国のそれを見る目も肥えてくるかも知れない。

情報活動って、なにも「秘密にしている話を強引に掘り出してくる」だけのものじゃないから。むしろ、公開情報から何かを読み取ったり見つけ出したりする方がエキサイティング。そう思いません ?

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