Opinion : 今の時代を記録して残す仕事 (2022/2/14)
 

なぜか日本の鉄道趣味界は、他の分野と比べて「懐古勢」の声がでかいような気がする。マジョリティかマイノリティかは別として、新しいものを否定して「昔の○○はよかった」と主張する声もチョイチョイ出る。それはさておき、昔の話をまとめたり掘り起こしたりした書籍は、結構な数が出ている。

自分も関わったところでは、国鉄末期の貨物輸送を取り上げた本なんていうのがあった。確かに現在、鉄道貨物は大半がコンテナで、後はわずかな専用貨物 (事実上は石油のみか) だけで成り立っているようなもん。すると、多種多様な貨車が走っていて、途中で何度もヤードに入れて組成を変えていた時代は「歴史」でしかない。それについて記事を書くためには、まず「ヤードとは何ぞや」という話から始める必要がある。しんどかったけど面白い仕事だった。

ただ、「昔を懐かしむ」のはいいけれど、「昔のままであり続けるよう求めて、変化を拒絶する」ようになると、それは違うんじゃないのといわざるを得ない。


だいたい、去り行くものや過去に存在していたものには「思い出係数」のようなものがある。プラスになる話は強調される一方で、マイナスになる話は無視されたり、なかったことにされたりする。

そのバリエーションで、「子供のころに憧れていた○○に、いざ乗ろうと思ったときにはなくなっていた」というパターンがある。気持ちは分かるけれども、それ、実のところはいつの時代にも存在する話でありましてね。

たとえば今だと、「寝台列車」は絶滅危惧種になってしまっている。すると、各地で夜行の特急や急行がドカスカ走っていた時代を羨ましく思うのは、分からぬでもない。自分は年代的に、20 系・24 系・581 系から E26 系まで経験できただけ、まだ恵まれていたと思うけれども。

その自分とて、ひとつ時代をさかのぼれば話は変わる。たとえば東海道新幹線の開業以前、多数の夜行が東京から西に向けて雁行していた時代になると「歴史」でしかない。各地に、ちっぽけなローカル私鉄がたくさんあった時代についてもしかり。つまり、対象は違っても、今の「夜行列車に乗りたかったよ勢」と同じようなポジションになってしまう場面は不可避。

同じことは小田急ロマンスカーについてもいえる。一応、SSE から後の全系列と「走る喫茶室」を経験できているから。でも、逆にいえば SSE より前は知らない。一般車だって 2100 以前のに乗った記憶はない。

でも、それを言い出したらキリがない。自分がいつ、どこにどんな環境の下で生まれ出るかは、自分じゃコントロールできないんだもの。どんな時代に生まれても、どこかで「ああ、もっと早く恵まれた環境のもとに生まれていれば」と悔しがる場面はある。


さて。若いころにはこんな立場になるなんて想像だにしていなかったけれども、今の自分は物書き業である。では、かかる状況に対して物書き業という立場から何ができるか。それは多分、「可能な範囲で、時代の記録を形あるものとして残していくこと」なんじゃないだろうか。

雑誌のニュース欄は、実は、単に読者の皆さんに対して「最新のニュース」を伝えるためだけのものではないそうだ。あれは、その時々にどんな出来事があったのかを記録する、一種のアーカイブなのだという。

なるほど確かにその通り。いま各誌のニュース欄に書き記していることが、数十年後に国会図書館で誰かの調べごとの対象になるかもしれない。旅行記・乗車記の類にしても、読み手に模擬体験を残す意味はありそう。あまり自分がやっていない種類の話ではあるけれど。

どちらにしても、ネット媒体だと永続的に後世に残るという保証がないのが悩ましいところ。インプレスは過去記事をきちんと残しているけれど、むしろこれは珍しい部類。リニューアルして URL が変わるぐらいは可愛いもので、記事そのものが消えてしまケースも多い。

もっとも、当サイトでも「今週の軍事関連ニュース」は直近 1-2 ヶ月に絞っているけれど、これはもともと「自分用の記録を、ついでに公開している」という色彩があるので。と言い訳してみる。

結局のところ、フォーマットが変わるとか、デバイスがなくなるとかいう問題がなく、普遍的に形を残せるのは、やっぱり紙媒体。ノスタルジーではなく事実として、そういう状況がある。読み捨ててもいいものなら話は違ってくるけれど。

そこで「今のなんでもない日常に見えること」を記録していくことも自分の仕事なのかもね。と考えると、なんか新たなモチベーションが湧いてくるような気がした。

そーいえば。石勝線が開業した頃の「ここいいなあ」と思った撮影地が、今ではすっかり自然に負けて森林の中に埋もれていると知った時の悔しさよ。

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