Opinion : 陰謀論界隈は、何かに似ている (2022/5/9)
 

どこかで人目を引きつける (これ重要) 戦乱が起きる度に、「軍需産業が儲けるために戦争を起こさせている」論を吹かす人が出てくる。これについては前に書いたことがあるし、いちいち真面目に取り合うのはエナジーの無駄だから、もう繰り返さない。(だいぶ古い記事で書いたことがあるから、御興味がおありなら検索窓から探してみてください)

そもそも、この陰謀論界隈が槍玉に挙げるのは、いわゆる西側諸国の、その中でもせいぜい名前の知れた Tier 1 クラスの大手がいいところ。珍しい例外で KBR (Kellogg Brown & Root Services Inc.) があったけれど、これはこれで当事社の社名よりも親会社の社名で叩くという、ちょっと面白展開だった記憶。その理由は容易に推測できるけれど。

あと、「昔の社名で叩いています」展開もある。もうずいぶん前の話になるけれど、すでにその時点で業界再編により消滅していた会社の名前、確か Vickers を「怪しからん」とやっているものを見かけた記憶もある。これはまさに、情報がアップデートされていない、ひとつの典型。自分で調べないで、教祖様の御託宣を鵜呑みにすると、こういうことが起きる。

Vickers にも VDS (Vickers Defence Systems) と VSEL (Vickers Shipbuilding and Engineering, Ltd.) があってだな… なんて話を始めると収拾がつかなくなるので、それは措いておくとして。

ウクライナで先に仕掛けたのがロシアであるのは明確なのに、Rostec、統一航空機会社 (UAC : United Aircraft Corp.)、統一造船会社 (USC : United Shipbuilding Corp.)、統一エンジン会社 (UEC : United Engine Corp.)、はたまた Almaz-Antey あたりを槍玉に挙げてる陰謀論者なんておるんか ? どこで何が起きても常に悪役が同じであれば、それはもう背景事情が容易に察せられる展開。

ついでに書くならば、「防衛産業陰謀論」を信じ込んでいる人で、ロシアの防衛関連企業名がスッと出てくる人なんて、どれだけいるんだろう。と、それはそれとして。


陰謀論界隈も、ひとつの「産業」ではある。陰謀論をネタにした本は、昔も今も書店の棚の一角を占めているし、その分野に限定で名の知られた論客 () もいる。産業規模という観点からすれば、ひとつの国家の経済に占める比率なんて「屁」みたいなものではあろうけれど、声だけは大きいからそれなりに目立ちはする。

もっとも、「声が大きい」といっても、仲間内でエコー チェンバー化しているうちに大きな声に見えてくるという程度の話であって、なんだかレーザー光を励起させるプロセスに似ていなくもない (なんのこっちゃ)。

と書いてみて思ったけれど。何かのネタに着目して「悪役」を設定して、一般的に受け入れられやすそうに見えるストーリーを投下する「エネルギー」の投入役 (教祖様) がいる。次に、投入された「エネルギー」を増幅させる「陰謀媒質」がある。そして増幅が進んで声がデカくなり、それをネット上などの場に対して「誘導放出」する。

教祖様が唱える「教義」を、信者がみんなで同じように連呼して繰り返すところはコヒーレントだし (なんのこっちゃ)、いってることは毎度恒例のワンパターンなので、単色性もある (なんのこっちゃ)。

こうしてみると陰謀論界隈、やはりレーザー光の生成と似たところがあるみたいだ。ただし、レーザー光はなにかしら人類の役に立つのに対して、陰謀論は人類の役に立たない。ネット上の余計なトラフィックを増やしているだけ。

それでも、「防衛産業陰謀論」は、第二次世界大戦か朝鮮戦争あたりで思考が止まっているワンパターンの妄想を吹聴する程度の話だから、まだしも笑っていられる。いや、お笑いのネタにする程度でよろしい。ところが、これが反ワクチン界隈の陰謀論になると、人命に関わってくるのだから笑えない。


陰謀論にあっさり釣られる時点で「ダメな人」と認定される、そういう認識が広く定着すれば、釣られる人は減るんだろうか。実は減らないように思える。却って「真実を知っているがゆえに迫害される」という思い込み、あるいは「自分は、そこらの愚民とは違うのだよ」というひん曲がったプライドのブースターになるから。

なんかもう、エコー チェンバーの中に封じ込めておいて「そこから出てくるな」というのが現実的な落としどころかも。何でもそうだけれど、宗教じみてくると手がつけられない。

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