Opinion : 物書き業について、ちょっと考えてみた (2022/7/25)
 

先週、「Web ライターのギャラが安い」という記事を見かけた。載せていたのが弁護士ドットコムだから、「社会正義の観点からすれば、搾取されている書き手は救済されるべき」という意図があるのかなと思った (真偽の程は知らない)。

確かに、1 文字 1 円とかなんとかいう話を聞くと「そりゃたまらんわ」とは思う。インカムが少ないと、レベルアップのための投資もままならない。ところが一方で、お仕事先の編集者と話をしていると「書き手がいない」という話が頻出する。なんですかこのミスマッチは。


たぶん、ありそうな展開はこれ。

  1. 安上がりにマスにリーチして数で稼ごうとする媒体は、それこそもう、掃いて捨てるほどある
  2. そこに、何でもいいから仕事が欲しいという書き手が群がって買い叩かれる
  3. そういう媒体に限って (マスにリーチするための) SEO には熱心だから、"ググってもカス" の元凶になる
  4. おまけに競合が多いからパイの奪い合いになって、安く仕入れて安く売る競争になりがち
  5. それでは書き手が育たないし、記事の質も上がらない

ただ、キツいことを書くならば、書き手の側は無謬なんだろうか。件の記事には「上流工程を目指す」という話も出てきていて、それはつまり「買い叩く側」に回るということ。そりゃただの申し送りで、問題解決になってない。

物書きになりたいという方の中では、ありがちな話だと思うけれど「何でもやります」。実のところ、「何でもできます」は「何もできません」と同義。書き手として成功している人はえてして、「この分野なら任せなさい」という分野を持っていたり、独自の芸風を確立したりしているもの。

それがなければ、不特定多数の中に埋没してしまって、アピールもしづらくなる。最初から、埋没しないための戦略、テンプレ通りのお仕事にとどまらないための戦術を考えようよと。

あと、ちょいちょい耳にするのは「素人でも分かりやすいように書きます !」だけど、それ、実はいちばん難しいやつだから。子供向けの本なんていったら、難しいお仕事の極めつけ。

なぜかといえば、「対象を深く理解・咀嚼する」ことと「それを相手が分かるようにアウトプットする」ことの両方が求められるから。それを自分でやらずに、取材相手に丸投げしている人を見かけたこともあるけれど (どこの新聞社のこととかいわない)。


ただ、「この分野なら任せなさい」という分野も永続的なものではないし、新規参入が増えてレッド オーシャンと化すかも知れない。ひとつ旗を立てたらそれで終わりではなくて、日々改善するなり、新たな旗を立てるなりの努力は常に必要。するとたぶん、「新しいことに手を出すのを厭わないチャレンジ精神」と「好奇心の強さ」は不可欠な要素。

ただ、いきなり突飛なことをやっても、編集サイドに突き返されないとも限らない。だから「いつ、どこでこのカードを切ればいいか」「突き返されないためにはどう攻めれば良いか」という戦術眼も必要。その場その場の刺激とウケ狙いと流行り物に誘惑されてフラフラしないための、ある種の識見と粘り強さも必要。

そしてなにより、「物書きとして、自分が何を読み手に提供できるのか」というビジョンやミッション ステートメント。これがないと「書き手としての旗」は立たないんじゃないかと。それを無視して、ギャラの安さだけ嘆かれても。そう思う部分もある。

インカムを上げるには、自分の価値も高めないといけない (これは、書き手だけでなく媒体にもいえること)。あと、力業にばかり頼らないで、仕事を無理なくこなす仕組みの構築。力業にばかり頼っていると身体を壊す (真顔)。

ただ、冒頭でも書いたように、それをやるには先立つものも要る。そのことと「旗の立て方」に関する見通しがない状態で物書き業に参入すること自体、無理があるんじゃないだろうか。本気出して取り組もうとすれば、簡単そうに見えて簡単じゃない仕事だから。ましてや「夢の印税生活」なんて死語みたいなもん。

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