Opinion : "獲る" 努力だけでなく "維持する" 努力も (2022/10/3)
 

前にも書いたかも知れないけれど、以前から移動体通信業界に対して強烈な不満 (おっと、北京政府みたいな言い回しをしてしまった) を抱いている話がある。「MNP で他社から転入してくるユーザーばかり優遇して、長く使い続けているロイヤリティの高いユーザーが蔑ろにされちゃいませんか」というのがそれ。

うちの携帯電話は au 回線だけど、IDO 時代からもう四半世紀近く、同じ番号で使い続けている。MNP 転入ユーザーに対する数多の優遇を横目に見ながら。

そういえば、エアライン業界は真逆のところがあって、たくさん利用してくれる利用者ほど大事にされる傾向がある。もっとも、通信業界と違って「基本料金」がなく、乗ったら乗っただけ revenue になる (いいかえれば、乗ってもらわないと revenue にならない) 構造だから、単純比較に意味はないけれど。

そういえば、紅組も青組も「生涯マイル」という指標があるけれど、これが何かモノをいう機会は来るんだろうか。と、それはまあどうでもいいとして。


米軍には retention という言葉があって、これは現役軍人の勤務継続 (悪くいえば引き留め) を意味する言葉。Slot 1 の CPU をマザボに固定するパーツも retention といっていたけれど、意味合いとしては似ている (え ?)

退役して民間に転じるよりも、引き続き軍務に就いてくれる方が、戦力維持の観点からするとありがたい。費用と手間をかけて訓練しているのだから、その分だけ長く勤務してくれる方が助かるし、いきなりポジションに穴が開いても困る。もちろん、いずれは歳を食って退役する日が来るにしても、それはまた別の話。

だから、勤務継続を決めたときにボーナスを出すとかなんとか、いろいろな話が出てくる。ただし個々の軍人の側からすれば、経済的なベネフィットの話だけで継続を決めるとは限らない。仕事の内容や職場環境など、いろいろなファクターが絡む。これは民間でも変わらない。

となると、組織を管理する上司・上官は、その環境作りに気を配らないと、という話になる。職場の雰囲気が悪くなると、離職者が増えて、結果として組織のパワーもパフォーマンスも落ちてしまう。

そういえば米海軍艦隊総軍 (USFF : United States Fleet Forces Command) では Fleet Retention Excellence Program というのがあって、継続勤務者が多い艦に対して Retention Excellence Award (旧称 Golden Anchor Award) を出している。これを受賞した艦は錨を金色に塗るから、外から見ても一目瞭然… なのはいいけれど、錨を使っているうちに剥げて塗り直しになりそう。いや、それはどーでもいい。

7 年前、USS Ronald Reagan (CVN-76) が横須賀に入港したときの写真を見ると、まさに錨を金色に塗った状態だった。長期航海に出る空母の勤務がキツくないはずもなかろうし、5,000 人以上も乗り組んでいればいろいろな人が出てくるから、人間関係だって難しい部分が増えそう。そこで錨を金色に塗れるというのは、大したものだと思う。


組織ないしは上司・上官が「おまえらがいなくなっても、代わりはいるんだ」という態度を露骨に出したり、感じさせたりすれば、部下だってそれ相応の反応をしてしまうのではないか。冒頭で引き合いに出した移動体通信業界が、顧客に対して同じことを考えているかどうかは知らないけれど。

人をとるために手間や経費をかけるのは当然であるにしても、同じように、すでにいる人を維持するためにも手間や経費をかけないと、結果として組織が弱体化してしまう。そういう事態を懸念したくなるような話があったので、こんなことを書いてみた。わりと一般的にいえる話だと思うから、特定の誰かを名指しすることはしないにしても。

あと、組織全体が外部から (不当に) 白い眼で見られたり叩かれたりしたときに、組織のトップが先頭に立って「盾」にならないといけない。それができないと、これまた構成員の士気がダダ下がりして、組織全体のパワーが下がる原因になる。でも、これができないトップが意外といるんじゃないだろうか。

だいたい、すでにいる人を維持できなくなるような組織であれば、結果として、新たに人をとることも難しくなるんじゃないの ?

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