Opinion : 目の前の事象だけ見てると怪我をする (2022/10/10)
 

先日、目覚めた途端に J アラートが発令される騒動があって、いきなり頭がシャッキリしてしまった (職業病)。太平洋上への着弾で、陸上の人やモノに被害がなかったのはなにより。もっとも、それをやったら一大事なわけで、それぐらいは北のカリアゲ君も承知しているのだと思いたい。

その J アラート、北海道や東北方面だけでなく東京都も対象になったので、伊豆諸島か小笠原方面に落ちる予測でも出たのかと思ったら、そういうわけではなくてミスだったらしい。すると当然、鬼の首でも獲ったように叩くブン屋さんが現れる。

しかし冷静に考えれば、弾道ミサイルの着弾地点を予測するには相応のデータが要る。撃てば直ちに SBIRS (Space Based Infrared System) 衛星が捕捉するにしても、その時点では「撃った」ということしか分からない。その後に飛翔経路を追い続けることで、着弾地点の予想精度が上がってくる。

これぐらいの話は「業界」の人間なら知ってて当然のこと。しかし、それを知らなくて「撃った途端に着弾地点を予測できる」と思っている人がいても不思議はない。そのこと自体は責められないにしても、それならそれで「こういう仕組みになっているので、着弾地点の予想は簡単ではない」と説明するのが、それこそ報道の責任ってもんじゃないだろうか。

そこで、おつむが「国のやることを叩いて "権力の監視をする" のが俺たちの仕事」程度の意識だと、「対応するための時間が足りない」だの「エラーが出た」だのと叩いて、それだけで満足してしまう。ただの大変屋である。


これに限らず。日頃からきちんと勉強して、必要な情報を得ていれば、何か事件があっても冷静に対処できる。か、少なくとも冷静に対処できる可能性は上がると期待できる。ところが、日頃はちゃんと勉強していなくて、「知らないことは誰かがタダで教えてくれる」という程度の了見でいると、どうなるか。

たとえばの話、何か目新しい出来事、インパクトがある出来事が勃発したときに、それに過剰に引きずられて、過剰に反応してしまう。そんな事態になりやすい。この「出来事」は「製品あるいは技術」に置き換えてもいい。

なんてことを思ったのは、今朝だったか、北朝鮮が湖から弾道弾をぶっ放した、というニュースが流れてきたせい。海から撃つのは目新しくもなんともないけれど、内陸の湖から撃つのは目新しさがある。そういう「これまでに見聞きしたことがなかった話」が発生したときに、明確な根拠なく「これは画期的で大変なことだ !」と騒ぎ立てる人が出てくる事態が懸念されるところ。

念のために書いておくけれども、湖から撃ったことが「どーでもいい」とまではいわない。しかし、「湖から撃つのがゲームチェンジャーだ」とも考えにくい。まずは頭を冷やして、技術的なメリットとデメリット、戦術的なメリットとデメリット、戦略的なメリットとデメリットを考えないと。たぶん、両極端に振れるのではなくて、中間に結論が来るんじゃなかろうか。

さらに始末が悪いのは、「目新しい」と思った出来事や製品や技術が、実はずっと前から存在していた場合。そのことを知っていれば冷静に反応できるのに、たまたま自分が知らなかったからといって「これは目新しい画期的なものだ !」と思い込んで騒ぎ立てられたのでは、迷惑にしかならない。「実はこれは以前からあったんですよ」と事実を指摘するのも報道の仕事でしょ。

だいたい昨今、「ゲームチェンジャー」の大安売りがひどい。「ファクトチェック」の大安売りも大概だけど。


継続的に情報を追う、あるいは目の前の出来事や情報だけでなく過去に遡って調べる。そういうことをしないと、たとえば敵味方の判断も誤りかねない。過去の行状まできちんと遡れば、味方になり得ないと分かる。

そんな相手を勝手に味方だと思い込んで、三軒長屋入りすることになれば、それはもう大惨事。勝手に味方だと思い込んだ挙句に卓袱台をひっくり返されて、それで怒り狂えばコントになる。

その昔、米内光政が「条約を反故にした事例の多くは某国と某国に…」と指摘したことがあった。との話を読んだことがある。これがまさにそういう話。自国の都合で簡単に条約を反故にするような国に信がおけないのは、誰でも分かる。

ところが困ったことに、この手の「目先の事象に釣られて騒ぐ」人の方が、えてして声がデカい。ことに安全保障が関わる問題で、この手のデカい声に引っ張られると、ロクなことにならないと思うのだけれど。

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