Opinion : 続・製品と商品のこと (2022/10/17)
 

↓ を書いたところで過去のデータを grep したら、10 年ぐらい前にも同じようなテーマで書いていた。まあいいや。


先週、FFM の統合マスト (NORA-50) をインド向けに輸出したい、みたいな話が報じられた。それより少し前に、たまたま NORA-50 の解説記事を書いて、その中で輸出の可能性やその際の課題についても言及していたけれど、これは単なる偶然の一致 (ほんと)。

ただ、相手がすでに相当な防衛産業基盤を持っていて、かつ "Make in India" を標榜していることからすれば、完成品をそのまま輸出するのは難しかろう。といって、先方のメーカーをうまい具合に交えられるような設計になっているのかどうか。それについては、直接関わったわけではないので知らない。

なんにしても、過去にあちこちで書いてきているように、「我が国固有の事情」に合わせたものを作っておいて、後から「自国向けだけでは数が出ないから輸出もしたい」では話があべこべ。最初から「海外に出せるものか、海外にも出すためにはどうすれば良いか」という視点が入らなければ、うまくいくハズのものもうまくいかなくなる。

これ、我が国の武器輸出 防衛装備品の海外移転に、ついて回り続けている問題。防衛省もメーカーも、そして国費の支出を差配している Z も、みんな考え方を変えていかなければ、同じことの繰り返しではなかろうか。

つまりは「製品」を作っているのか、「商品」を作っているのか、という話。こんな書き方をすると、お左翼様がキレ散らかしそうだけれど、意識の持ち方としては、ブツがなんであれ同じ。「これはいいものだから買え」といって押しつけても売れるはずがなく、買い手が何を求めているのか、という意識・視点を持たないと。


自分は物書きをしておカネをいただいているけれど。この「プロの物書きか否か」という線引きの基本は、実は「商品を手掛けている」という意識の有無じゃないかと思っている。どういうことか。

物書きたるもの、「自分はこれについて書きたい」という思いのようなものを持っていてしかるべきで、それはプロアマを問わない。何か明確に「自分はこれについて書きたい」という旗印がなく、単に物書きをやりたいというのでは大成しない。

ただ、一方的な「これについて書きたいから買って、読んで」ではビジネスにならない。アマチュアはそれが許されるし、それができるのはアマチュアの強みでもある。でも商売としてやるのであれば、「商売としてどう成立させるか」という意識が不可欠。ただしそれは、「客先に阿らなければならない」とかいう意味ではない。

そりゃ確かに、おカネを出す人が決める部分もある。スカンクワークスでは「将軍がピンクに塗れといったら、我々はピンクに塗るだけだ」といっていたそうだけれど。それはそれとして。

たとえば。同じテーマでも、商売として成立する「タイミング」「情勢」といったものがある。闇雲に、タイミングや情勢を無視して「買って、読んで」では商売が成立しない。常日頃から弾を用意しておいて、タイミングや情勢を読んで、戦機が来たと思ったところでぶっ放す。それができるのも「プロ」の資質ではなかろうか。

実際、自分が世に出した記事の中にも、いったんはお蔵入りになったものの、その後の情勢の変化にうまく合わせたおかげで世に出せた、というものがある。自分が実際にそういう経験をしているから、↑ のようなことを書ける。

あと、テーマが同じでも、料理の仕方が同じになるとは限らない。これも、「タイミング」「情勢」「場」に合わせて適宜、変えないと「商品」にならない。もちろん、競合がいるときには「競合と同じようなことやってるだけでいいの ?」「テンプレ通りの仕事をしているだけでいいの ?」という要素も入ってくる。


だいたい、仕向地に合わせて「カスタマーが求めているものを提供する」はメーカーなら普通にやっていること。「いいものだから買え」と殿様商売ができるのは「よほどの場合」に限られる。何も実績がないのに、自信だけ肥大化して殿様商売に走れば、下手をすると将来の商機すらつぶしかねない。

あと、最初の話に引き戻すと、「先方が何を (求めているか | 求めてきそうか)」という話だけでなく、過去に他国が関わってきた当該国向けの輸出商談について調べることも重要。そういう観点からすると、いきなりインドみたいな「面倒くさい相手」に突撃したくなるのかなぁ、という疑問もある。

NORA-50 の件にしても US-2 の件にしても、やたらとインドの名前が出てくる。もしかして政治サイドから「味方陣営に引き込む一環としてインド向けの輸出実現を」みたいな意向が来てるんじゃないの。と疑っている。

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