Opinion : 「日本も○○を買え」の宣伝マンにならないということ (2022/11/7)
 

昨今ならウクライナ関連が多いけれど、それ以外の海外時事問題でも同様に見られる傾向。「海外では○○をこんなに導入しているのに、日本は導入が遅れている」「△△の紛争で××が活躍しているのに、日本は導入が遅れている or 日本も導入するべき」といった類の言説。

その中でも、けっこうありがちなのは「ドローンをもっと買え」みたいなやつ。霞ヶ関の Z な役所までが、その手の言説に釣られて「戦車よりも FGM-148 Javelin の方がコスパがいい」と、カカクコムの口コミ欄みたいなことをいい出すのだから、もう洒落にならない。

もっとも一方には、この手の言説に対して「我が国には我が国固有の事情があって云々」という反論の仕方もあって、それはそれでどうなんだと。何でもかんでも「我が国固有の事情」といえば済むってもんじゃない。

結局のところ、単純に「モノを買え」という言説も「我が国固有の事情」ばかり連呼する言説も、どっちも相手にしない方がいいんじゃないのかなあという話。


実は、自分が海外モノの記事を書くときに注意していることがひとつあって。

「こういうテクノロジーがある」「こういうプロダクトがある」「こういう考え方、こういう仕組みでできている」ということは書く。ガンガン力を入れて書く。でも「これが日本に最適」とか「日本もこれを買え」みたいなことは、なるべく書かない。材料は投げるけれど、判断はそれを受け取った側次第。

それは、「これを買え」といった途端に、単なるセールスになってしまうと思うから。それは避けたい。端から見ると分かりづらい微妙なラインかも知れないけれど、本人の中では線引きしているつもりでいる。

それに、ここしばらく各方面でしつこく連呼している話で、「単にモノだけ買えば問題が解決するわけではなくて、それをどう活用するかという CONOPS (Concept of Operations) こそが重要」という話。それなくしてモノだけ買っても、どれだけ役立てられるかどうか。

そういう事態にならないためにも、単に「○○を買え」というべきではない、との考えにつながる。もっとも、形があるモノに限った話ではなくて、たとえば JADC2 (Joint All Domain Command and Control) みたいな「概念」も同じかも知れないけれど。

ただし JADC2 の場合、理解しやすい「モノ」ではないだけに、そもそも日本国内で「日本でも買え」と主張する向きがいそうにない。モノだと勘違いしている人がいたら、それはそれで大問題だけど。


ただ、この「海外で活躍している○○を日本も買え」は、いわゆるひとつの出羽守とは、また違うんじゃないだろうか。どちらかというと、「流行のお洋服が欲しい」に近いと思われる。技術研究開発の分野でも、「バスに乗り遅れるな」型の話はあるわけで、それと通じる一面がある。

それならなおのこと、お先棒を担ぐような真似はしてはいけないと思うのだ。お洋服ならクローゼットの肥やしになる程度の被害 (?) で済むけれども、防衛装備品はそうは行かない。

だいたい我が国、本来ならもっと先にするべきことがあるだろうと思われる永田町のセンセイ方が、モノを買う話にあれこれと口を突っ込んでくる場面がちょいちょい見受けられる。アメリカみたいに、議会が歳出権限法を策定するのであればともかく、我が国はそうではないのだ。

あの案件も、政治サイドからの「こういう良さそうなモノがあるから買おう」という話が先行して、CONOPS の煮詰め・明確化が後回しになったことが、後になってフラフラした (そしてフラフラを是正するための理論武装を欠く事態になった) 根本原因なのでは。モノが悪いわけではない。どう使うのだという意思をきちんと確立・貫徹できていなかったことが問題。

そろそろ今度は「自衛隊も Starlink を導入しろ」論者が、ゾロゾロと湧いて出てくるんじゃないか… ?

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