Opinion : モノばかりに気をとられていませんか、という話 (2022/11/14)
 

最近、日本の「国の護り」に関わる口癖は「"雨が降ってきたから傘をさす" 型の防衛力整備ではダメ」。先日、戦略研究学会の秋季講演会でパネラーを務めたときにも、真っ先に出した話。

分かりやすい例で、ミサイル防衛を引き合いに出すのは恒例。「降ってくるミサイルをいちいち迎え撃っていたのでは対処しきれない」から「それなら撃ってくる前に発射基地を叩け」という議論が出てきているのが昨今の趨勢。と理解しているけれど、それってフェーズが違うだけで、根本的な考え方は変わっていない。

そもそもターゲティングをどうするんだ、という根本的な問題があるけれど、それはまた別の話。それも含めて、とりあえず "長い槍" を買えば問題が解決するような気になっているように見えるところが、トマホーク導入論議の根本的な問題だと思う。


話は変わって。たまたま仕事の関係で、米陸軍の MDC (McDonnell Douglas ではなくて、Multi-Domain Capability) に関する資料を当たっていたら、興味深いページに行き当たった。いわく。「戦闘空間同士の相乗効果と冗長化したキル チェーンを通じて、敵の脅威システムを叩く」。

戦略研究学会の秋季講演会では、本職の自衛官の方が見ている場で「本来の目的は敵国の継戦意図を破砕することではないのか」とブッてしまったけれど、そんな間違ったことはいっていなかったはず。

(よくある例えだけど) 犬を棒で威嚇したときに、犬が棒にばかり反撃するのではダメで、棒を振り回して威嚇してくる人間に反撃しないといけない。要は、降りかかってくる個別の脅威を個別に振り払うのではなくて、脅威を降りかからせることで実現しようとしている「何か」と、それの「力の源泉」をつぶさないとアカンということ。

ついつい、目につく個別・単体の「モノ」にばかり気をとられてしまうけれど、本当に大事なのは、その「モノ」を使って何を実現するか。いいかえれば、敵国が実現しようとしているのが何で、それを実現するための仕組み (war machine) にどう対処するかを考えないと。

だいぶ昔に、「スクランブルに上がった戦闘機が対象機のところまで迅速に駆けつけるために、次期戦闘機にはスーパークルーズ能力が要る」との珍論があり、それに対して「そんなことになった時点で防空システムとしてダメ。脅威の飛来を早期に知り、迎え撃てるシステムを作ることこそ重要」という趣旨のことを書いた記憶がある。

これに限らず、個別のモノとかプラットフォームの能力を高めて対処する or 高めれば対処できる、というだけの考え方では、「脅威システム」を叩くことにならない。そういう思考だと、逆にこちらの war machine を動かす仕組みを護ることにも眼が行かないのでは。


「自衛隊の基地施設などを外から撮ることの是非」って、Twitter で不定期的に燃えるネタのひとつだけれど、上で書いたような観点から考えると。本当に問題なのは「基地内にあるハードウェア」なんか ? という疑問も出てくる。

つまり、何かのハードウェアが見えるところにあって、「それを公開することが問題だ」派と「見えるところにあるのだから問題ない」派がバトルしている。でも、どちらにしても単体のハードウェアに気をとられているところはおんなじじゃないかと。

本当に「保全すべき情報」が何なのか、ちゃんと考えた上での発言なの ? 目につきやすくて分かりやすい「モノ」の話に矮小化して、それで当局の味方をした気分になってない ? 本当に護るべき情報は別のところにあるんじゃないか、と考えたことある ? と、そういう話。

Contents
HOME
Works
Diary
Defence News
Opinion
About

| 記事一覧に戻る | HOME に戻る |