Opinion : 口先だけで終わりはしないか経産相 (2022/11/28)
 

11/22 の日経に「『防衛産業の基盤強化を』経産相、支援策検討を表明」と題する記事が載った。いわく。

「防衛関連企業の利益率の改善に向けた仕組みづくり」「厳格な輸出管理を前提とした装備移転・輸出の抜本的拡大」「民生と防衛の両面での用途が期待される先端技術の開発に向けた官民の連携強化」

アッハイ。


いくら国が旗を振っても、「参入しても赤字垂れ流し」では誰も寄ってこない。だから「適正な利益が出る仕組み」は不可欠だけれども、果たして Z をどう納得させるのか。もっとも、これは内輪だけで解決する話だから、まだいい。

「移転・輸出の拡大」。口でいうのは簡単だけれど、すでに鉄火場と化しているこの業界に、後発でどう割って入るつもりなのか。

大事なことだから何度でもしつこく繰り返して書くけれども、「我が国に固有の事情がある」といって国内開発したものを、後から「国内だけでは需要が限られるので海外にも出したい」といったところで、そんなもん、うまく行くはずがない。海外に出すつもりなら、最初からそのつもりでモノを作らないといけない。

それはすなわち、「我が国固有の事情が」モデルからの脱却が求められるということ。いくら FMS (Foreign Military Sales) を目の敵にして「輸入反対、国産で」といって尊皇攘夷みたいなことをやっていても、それだけで国内の業界が成長に転じるとは思えない。「我が国固有の事情が」モデルは、対外輸出を前提としない、自国内向けの需要だけで充足できる状況でなければ成立しないのだから。

本気で「海外移転の促進」をいうのであれば、まず、最初の企画から RDT&E (Research, Development, Test and Evaluation) のプロセスまで、ごっそり意識改革しないとダメ。相手国の事情に合わせたソリューションを用意できなければ、買い手はつかない。モノを買えば国防が成立するわけではないのと同様、モノを用意すれば対外輸出が実現するわけでもない。相手国が求めるソリューションをどうやって実現します、といってセールスしないと。

それに、輸出すればその後にはアフターサービスが何年あるいは何十年もついて回るのだから、そこまで引き受ける覚悟が要る。「輸出はしたいけど、アフターサービスまではやりたくない」なんて虫のいい話はない。しばらく前に某所でそんな話を聞いて「ダメだこりゃ」と思ったものである。

製造にしても、完成品輸出にこだわっていたら勝てっこない。相手国がオフセットや現地生産、あるいは生産参画を求めてきたらどうするのかと。「うちの製品は技術的に優れています」だけで相手が納得するはずがない。

すると、「他国の事情に合わせたモノを作る」には「他国のメーカーが参画することも考慮に入れる」という話が入ってくる。後から手直しして対応させるのではなくて、最初からそのつもりでモノや仕組みをデザインしないとうまくいかないし、余計なコストがかかってしまう。

ぶっちゃけてしまえば、自分らの都合を押しつけているだけで、まるで顧客の方を見てない。

ついでに書けば、ときには「相手国に対する調達費用の融資」という枠組みだってセットにしないといけない。自衛隊向けと同じ装備を輸出するなら、訓練などで自衛隊が関わる場面だって出てくるけれど、そちらはちゃんとやれるのかと。

とどのつまり、経産省だけが旗を振ってもどうにもならなくて、防衛省も自衛隊の現場も Z もなにも、みんなひっくるめて統一的・一元的な戦略を持って動かないと。それで初めてスタートラインに立てるのと違う ?


趣味の世界では、「なまじ自国内で充実した環境があると外に目が向かなくなる」という法則があるけれど、ビジネスでも似たところがあるように思う。なまじ自国内で、自国内のルールに乗っかっていれば商売できる環境があったばかりに、いざ、お外に出ていこうとすると、お外の事情を分かってない。

まず、他国の政府やメーカーや軍がどういう取り組み方をしているのか、リサーチして回ってみたらどうかと。それも、ある程度は殿様商売が成立するアメリカではなくて、それ以外の国で。なにしろ、状況認識ができていないのに突っ込んでいっても、ミッドウェイ海戦みたいなことになるだけ。

その上で、「国内の防衛産業基盤を維持して行くには、これとこれはやらないといけない」という結論を出したら、今度は泥をひっかぶってでも石にかじりついてでも、それを貫徹する覚悟でやらないと。いい子のままでいいとこ取りだけして美味しい思いをしようとしても、きっと瓦解するから。

Contents
HOME
Works
Diary
Defence News
Opinion
About

| 記事一覧に戻る | HOME に戻る |