Opinion : 装備品を "時代遅れ" にさせないためには (2023/1/9)
 

新しい装備品の導入話が持ち上がると、たいてい反対論者が現れる。反対するのも賛成するのも言論の自由があるから別にかまわないんだけれど、反対するならするで、ちゃんと実のある反対の仕方をして欲しいもの。それができずにテンプレ通り・教典通りのワンパターンを繰り返すのが現実。

そして最近の頻出パターンは「トマホークは時代遅れ」であるらしい。

*GM-109 トマホークの名前が活動家の業界で俎上にのぼった発端は、たぶん核弾頭搭載型の BGM-109A に起因する「核持ち込み疑惑」あたりと思われる。そして、この名前が広く知られるようになったきっかけは、もちろん 1991 年の湾岸戦争。それから 32 年が経過している。


10 年ひと昔というけれども、その尺度だと 32 年は長い時間。しかし、32 年前に使った BGM-109C と今の *GM-109E (ブロック IV) が同じモデルだと勘違いしているんじゃないか、という疑惑は払拭できない。実のところ、能力的にはけっこうな違いがあるし、さらに改良型のブロック V も計画が進んでいる最中。

「トマホーク」という名前だけ見て新旧を論じるのは、AE80 あたりのカローラと今のカローラを比較するようなもの。というツッコミをしている人は、すでに何人もいらっしゃると思われる。

これに限らず、ミサイルはたいていモジュール設計になっていてセクション単位で更新できるから、古いスラマーを最新仕様に改修するようなことも起きる。トマホークも、ブロック IV はブロック V に改修される。

と、こういうのは正統的な「時代遅れ論への反論」だけれど、実のところ「時代遅れ論者」は真の意味での「時代遅れかどうか」は論点にしていないようにも思える。つまり、中身のことなんか知ったことではなくて、単なる「一般に受け入れられやすい名目」として「時代遅れ」といっているだけなんじゃないかという疑惑。

たぶん、そういう人ほど「AI やドローン」といった流行り言葉に釣られる。トマホークではないけれども、「AGM-158C LRASM (Long Range Anti-Ship Missile) が AI を使っています」といったら、どういう顔をされるだろうか ()

嫌味はこれぐらいにして。ミサイルをモジュラー設計にして、セクション単位で更新できるようにするのは「ハードウェア的な陳腐化対処」。ところがそれだけでなく、コンピュータ制御になったことで「同じハードウェアのままで、ソフトウェアによる能力向上」も可能になった。

すると何が起きるか。外観は何も変わっていないのに、時期によって能力は大違いということが起きる。イージス艦なんか、外見は昔も今も大して変わっていないのに、中身はべらぼうに違う。これはハードとソフトの両方が新しくなっているものの、同じハードでも C&D なんかのソフトウェアは変わっているし、レーダーについてもしかり。これから出てくる新しいレーダーは、ますますそうした傾向が強くなる。

重要なのは、そういう継続的な能力向上や、戦闘概念の変化に対応していける懐の深さを持ち合わせているかどうか。そうなると、アーキテクチャのオープン化や、継続的なソフトウェアの改良といった話が大事になってくる。

後日の改良を受け入れられる、懐の深さを備えた基盤を最初に作っておけば、改良を重ねながら長く使える、「時代遅れ」にならない (または、なりにくい) 装備品ができる。

もうひとつ大事なのは、改良型ができたときに、既存のものについても改修して同一仕様に揃えること。それをやらないと兵站・運用管理の悪夢が起きる。そこで改修の費用をケチると、長い眼で見たときに有形無形の余分なコストがかかる。

これらをいいかえれば、「これで完成」というゴールがなくて、運用期間を通じて改善が続くことになる。そこで個人的決め台詞の「永遠の未完成品」なんて言葉を迂闊に持ち出すと、今度は「未完成の欠陥品を配備しようってのか !」と吹き上がる人が出てきそうではあるけれど。


ちなみに、多少は勉強している人だと「トマホークは時代遅れ」の代わりに「トマホークでは移動目標は叩けない」などのターゲティング問題を持ち出してくることがある。しかしこれはこれで問題があって、自論に都合がいい「ターゲティングが困難な対象」ばかり引き合いに出すことがある。

どんな装備にも能力的な向き・不向きや限界はあるわけで、それをわきまえた上で「長所を活かして何をどう叩き、どういう効果につなげるか」を考えなければならない。そこで「ターゲティングの困難」ばかり連呼するのは、戦闘概念という考え方が頭からすっぽり抜け落ちていることを自ら示しているだけではなかろうか。

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