Opinion : 大事なのは問題解決 (2023/1/16)
 

しばらく前に、「量子コンピュータでシフト勤務の割り当てを作る」という話が流れてきた。これが本当に量子コンピュータに向いている仕事なのか、量子コンピュータでないとできない仕事なのかは措いておくとして、気になったのはこの件に対する反応。

それは何かというと「量子コンピュータみたいな最先端の技術を、身近なシフト勤務割り当てなんて用途に使うの ?」といった按配の反応。文面はいろいろバリエーションがあるだろうけれど、まぁ意味合いとしてはこういう話。

もっと高尚な… というと語弊があるかも知れないけれど、「すごい技術はすごい問題解決に使うべき」という発想を持つ人がいるんだなあと。正直いって、そこは違和感を覚えているところ。


この件に限らず、身近な問題解決に最先端技術が使われている話、探せば他にもいろいろ出てくるんじゃないだろうか。逆に、最先端のハイテクと思われている分野で、昔からある解決策、意外なほどシンプルな解決策が使われている場面も、これまた存在するかも知れない。

もっとも、技術でも用途でも、「最先端」とか「高級」とか「すごい」とか、あるいはこれらとは逆の位置付けでも。そういう分け方自体が、そもそも疑義を呈するべきところ。「天は人の上に人を作らず」ではないけれども、極端なことをいえば (この但し書きは忘れないでね) 高級も低級もないだろうと。要は、問題解決につながれば良いのではないかと。

新しい技術や製品やサービスが出てきたときに、えてして出てくるのが、その技術や製品やサービスを使うこと自体が目的になってしまうケース。技術も製品もサービスも問題解決のためにあるので、それを使うこと自体が目的になったのでは、本末転倒感がある。とは、以前からあちこちで書いてきていること。

よくある「AI を使って○○しました」を売りにするのも、売り文句として通用すると思うからそういう言い方をするのだろうけれど、どんなもんなんだろうなぁと。問題解決ができれば、AI を使おうが他の方法を使おうが構わないじゃないかと。

「最先端技術だから、ものすごい用途に使わないともったいない」みたいな発想が出てくる背景にも、その「技術や製品やサービスを使うことが目的になる」マインドがあるんじゃないか、と疑っている。

「高尚な or 高級そうな用途でなきゃね」などと思うこと自体、技術そのものを目的とする発想でしょ ? あるいは、「数多のリソースをつぎ込んで開発したものだから、それに見合った使い方をしないともったいない」みたいな考え方か。それはちょっとケチ臭い、ビンボくさい発想ではないかしらと。

個人的には、「最先端だろうが何だろうが関係なく、適切な技術が問題解決に活用されている」というマッチング、応用アイデアの部分にワクワクドキドキを感じるのだけれど、こういう感覚っておかしいんだろうか。「なるほど、この問題解決にこういう技術を使う発想があったのか !」みたいなやつ。

iOS デバイスを使ってる人ならおなじみの Siri のルーツが、実は DARPA (Defense Advanced Research Projects Agency) の研究プロジェクトにあった、なんていう話は典型例。DARPA の人が最初から、そういうつもりでプロジェクトを立ち上げたわけでもなかろうし。

そういえば、手元に iPhone がやって来て 3 年以上経つけれど、Siri って使ったことないな (←


どんな技術にも、程度の差はあれ、いえることなのだろうけれど。最初に意図していた分野や用途だけに留まらず、アイデア次第で、想定していなかった分野にまで版図を広げる。そんな事例はけっこう多い。そしてときには、世界を大きく変えてしまう力を発揮する。それが外部のウォッチャーからすると、面白く、楽しいところ。

してみると、「最先端のハイテクだから高度な用途に使わないと」とか、「この技術はこういう用途が目的だから」といって他の分野に目を向けないとか、そうやって最初に縛りをかけてしまう方が、よほどもったいないことじゃないだろうか。せっかくの研究開発の成果、アイデア次第でいろいろ活用できる方がいいじゃないかと。

なお、その「アイデア次第でいろいろ活用」に、民生向けと思われている技術や製品の軍事転用が含まれるのは、これはもう不可避の話。

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