Opinion : 報道心理における、ちょっとした心配事 (2023/1/23)
 

なんだか、もうすっかり「過去のニュース」と化した感がある、セレスティアル航空の一件。後で NHK が検証番組をやっていたらしいけれど、物理的に視聴ができないので見ていない。それはともかく。

当事者が意図的にやったのかどうかは分からないけれども、後から振り返ってみれば、この件は新聞やテレビのマインド セットをうまいこと突かれた結果じゃないかと思っている。それはどういうことかというと。


この業界… というと主語が大きすぎるか。ことに社会部の話だけれど、基本的に「虐げられている弱者」「分かりやすい正義」、そして「夢みたいな話の実現」といったネタに弱い傾向があるように思う。少なくとも、日頃の報道姿勢を見ていると、そういう印象を受ける。

「現在、陸路だと移動に時間がかかり、空路も数が極めて少ない区間」があり、そこに「画期的な安価でヘリコプターを飛ばして結びます」といえば、これはもう典型的な、「夢みたいな話の実現」という図式になる。そこで舞い上がってしまって、裏取りや検証が疎かになっちゃっていませんでしたか。と、そういう話。

回転翼機でも固定翼機でも関係なく、商業航空輸送を実現しようとすれば、ハードルはすんごく高い。それはもう、過去に日本で新しいエアラインを立ち上げようとした各社が通ってきた道でもある。

確か、マイナビニュースでスターフライヤーを立ち上げる過程が記事になっていたことがあったと記憶しているけれど、それを読んだときには「いやはや大変だったのだな」と思ったもの。でも、空の上では安全第一。安直に事業を始められても困る。航空局が慎重になるのも分かる。

運送事業だけでなく、そこで使用するハードウェア、つまり機体についても事情は同じ。機体を設計して完成させただけでは、まだ道半ば。それが型式証明をとるまでのプロセスと、その過程での試験・評価こそが大変なんじゃないの… という話は前にもどこかで書いたか。

でも、そういう前提を共有していない人が、いきなり「夢みたいな話」を目の前にぶら下げられたら、どう反応するだろう。しかも、自分らが平素に「レギュラー悪玉」認定している相手のいうことなら疑いの目を向けるのに、そうでない相手のいうことならあっさり信じ込んでしまう。そんな場面はなかったのかなと。

この、「レギュラー善玉」と「レギュラー悪玉」で、対応がまるで変わる場面はチョイチョイ見受けられそう。ただ、、そちらにまで話を拡げると脱線しかねないので、今回は措いておくとして。


怖いのは、こういうマインド セットというか行動原理というか、それを意図的に利用して悪さを仕掛けようとする人が現れたとき。それはなにも悪徳商法や反社会的な某の類に限った話ではなくて、国家レベルの情報戦・宣伝戦の一環として仕掛けられる可能性だって考えられる。

その種の人達は当然ながら、正体を隠蔽したり、いかにも善玉のように見せかけたりする術にも長けているだろうから、うまいこと「レギュラー善玉」「レギュラー弱者」認定を手に入れることになりはしないだろうかと。いったんそうなれば、おそらく、疑いの目を向けられることはなくなる。

もちろん、これが「杞憂」「心配のしすぎ」で終われば、その方が良いに決まっている。しかし、こちらが「そんなことは起きるはずがない」「そんなことは起きて欲しくない」と思うこと自体、敵対勢力側からすれば、仕掛ける動機となり得る。それは忘れてはいけないことではなかろか。

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