Opinion : 原因だけでなく結果の切り分けも必要 (2023/2/20)
 

先週は「原因の切り分け」について書いたけれど、今回は「結果の切り分け」がお題ということになってしまった。

H3 ロケットの初の打ち上げ… がアボートした。メインの液体燃料ロケットは起動したものの、ロケット ブースターの点火ができなかった由。そしてこの件について、共同通信の記者が「失敗」と書いただけならまだしも、記者会見の席で JAXA 側の状況説明に対して「それは一般に失敗といいます」とやらかした。

結果として、件の記者は叩かれているわけだけれど。これもまた、先週の話と同様に「切り分け」が必要な話なのではなかろうか。というのが今回の本題。ただし今回の対象は、原因ではなくて結果の方。


ロケットを発射してペイロードを軌道に載せるのが打ち上げの目的。それが達成できなかったのだから、成功といえないのは事実。任務達成という観点からすれば未達。

ただし一方で、ロケットもペイロードも失われず、周辺に何か被害を及ぼしたわけでもない。予防的な打ち上げ中止がちゃんと機能したのだから、エンジニアリングの観点からすれば、ある種の成功ではある。もちろん、打ち上げを完遂すれば本物の成功だったのだけれど。

つまり、「任務としての成功・失敗」と「エンジニアリングにおける成功・失敗」を切り分けないと話が噛み合わないでしょ、ということ。それを一絡げにして「成功した、いや失敗した」とやり合ったところで、折り合いがつくはずがない。

そういう意味で共同通信がやらかしたなと思うのは、まさにその「一絡げ」をやってしまい、善悪二元論に走ったこと。「良くないこと探し」に走りがちなブン屋さんの悪い癖がモロに出た感がある。まあ、「打ち上げ失敗 → 悔しい思いをする関係者」という流れに持って行けば、「人間ドラマを貪り食う」いつもの習性に適うけれど。

「業界のテンプレ」に適った報道 () を遂行したという点では、共同通信の立場、あるいは記者の立場からすれば、任務を達成したとはいえるのかも知れない。結果として組織や記者の評判が下がったのは大失敗であるにしても。これもまた切り分けが必要な話。そこで共同通信に対して「それを一般には失敗といいます」とやったのでは、相手と同じレベルになる。

おそらく、「わかりやすい報道」を「白黒ハッキリつけた善悪二元論」と勘違いすると、こういうやらかしにつながるのだと思う。世の中、そう何でもかんでも明確に白黒つけられるものではないし、上で書いたように「視点が変われば成功・失敗の尺度が変わる」場面もあるというのに。

それとも、「いちぜろ」で強引に二元論に落とし込むのがデジタル トランスフォーメーション、だと思い違いしてるんだろうか (それはデジタル違いである)

成功の切り分けといえば。CM はとても話題になったけれど、その CM を通じて売りたかった商品の売り上げはイマイチで終わったとき。果たしてこれは成功といえるのか、いえないのか。CM を作る立場からすれば成功だけれど、CM を出稿する立場からすれば失敗といわざるを得ない。


戦史を紐解くと、「戦術的には勝ったけど戦略的には負けた」みたいな話がいくつも出てくる。

よくいわれるのは、珊瑚海海戦における日本海軍。確かに、戦果と被害の対比を見れば明らかに日本海軍は勝ったけれど、ポートモレスビー攻略という作戦目的は達成できていない。似たような話で、第三次ソロモン海戦もそう。被害は米海軍の方が多かったけれど、飛行場砲撃という作戦目的は未達。目的は異なるものの、第一次ソロモン海戦も似たり寄ったり。

いくら敵軍に大きな被害を与えても、敵軍の作戦目的達成を阻止できなかったのなら、果たしてそれは勝利といえるのかどうか。戦闘に勝つことと、作戦で勝つことと、戦争に勝つことは、単純なイコールじゃない。

言い方を変えれば、敵軍に被害を与えることだけ考えていてはダメで、いかにして敵軍の任務達成を、ひいては作戦や戦争の目的達成を阻止するかという視点が必要。軍研で「ミッション エンジニアリング」の話を書いた背景には、そんな考えがあったから。

昨今、賛否入り乱れて場外乱闘が激しい *GM-109 Tomahawk の導入話にしても、「それで何を達成するつもりなんですか」という視点から論じている人をあまり見かけないような気がするのは、マズいのではないかなぁ。

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