Opinion : グレーゾーンとホワイトリスト (2023/2/27)
 

今月発売の「Jwings」誌で、例の気球事件について書いた。原稿が締め切られてから発売までにリード タイムを必要とする紙媒体の宿命で、2023/2/10 以降の動向については反映できなかったものの、それまでの情報をガラッとひっくり返すような話は出てきていないから、結果オーライ。

ただ、この件についてどうにもモヤモヤするのは、(誌面でも書いたように) 過去に日本の上空にも不審な気球が現れていたのに、その際にはあっさり (?) スルーしていたこと。正体を明かさず、フライト プランも出さずに我が国の領空を飛んでいった飛行物体なのに。

なのに、アメリカが撃墜という強硬手段に出て、しかも北京が「うちが飛ばしました」とあっさりゲロしたら、今度は「日本で同じことが起きたら撃墜できるのか」などと大騒ぎする向きがいる。たぶん、そういうことを言い立てる人に限って、正体不明のままだったらダンマリを決め込んでいたんじゃなかろうか。


探知・撃墜の能力や法的裏付けがあるとかないとかいう以前に、同じような事象でも状況によって反応が違う。これが最大の問題じゃないかと。自分で腹をくくって決められない問題、と言い換えてもいい。

よくよく考えれば、BMD の分野も似たり寄ったりだったかも知れない。北朝鮮の弾道ミサイル開発に関する話はいろいろ出てきていたものの、大騒ぎになって BMD 資産の配備に火が点いたのは、テポドンが日本の上空を飛び越えて太平洋上に落下してから。

「いたずらに敵視したり刺激したりするな」「脅威論はネトウヨの妄想」みたいなことを言い立てていても、いざそれが本当に起きてしまうと、朝野の反応がガラリと変わる。まさに「雨が降ってきてから傘をさす」的な反応になる。いいかえれば、未知の脅威、未確定の脅威に直面すると、どう反応していいか分からずにフリーズしてしまう。

これを敵対勢力の側から見ると、どうなるか。相手が反応に困るような未知の脅威を作り出して、スルーしたりフリーズしたりしている隙を突いて本チャンの攻撃を仕掛ける… そんなシナリオを考えやしないか。白黒ハッキリ決められない事態を意図的に作り出す。まさしくグレーゾーン事態。

「こういうのがグレーゾーン事態である」と明確に決まっている (なにやら矛盾の塊みたいな書き方だけど) のであれば、どう対処するかは事前に決めておける。でも、それでは真の意味のグレーゾーン事態にならない。相手が白黒つけるのに困るような事態を作り出して、混乱に陥れるのが本物のグレーゾーン事態じゃないかと。

たぶん、個別に「○○が襲撃してくる」「○○が攻撃される」といった具体性を伴う話に落とし込もうとすると、その「○○」に該当しないものはみんな対象からこぼれてしまう。だから、「○○に対して△△で対処する」というホワイトリストの積み重ねだけに頼っていると、そのリストに載っていないものは、みんな対処不可能になってしまう。

といって、あらゆる手段を事前にリストアップしてホワイトリストを作れるかというと、それは不可能な相談。だいたい、敵対勢力の側にしてみれば、そういうリストの裏をかこうとするものであろうし。


これは、最初の「気球事案」のときにスルーしてしまった自己反省も兼ねているのだけれど、もうちょっと発想を柔らかくして、「敵の可能行動」を柔軟に考えないといけない。のかもしれない。

といいつつも、一方では「ホワイトリスト方式では限界があるだろう」と思う部分もある。ただ、これを変えようとすると「国の護り」に関する根本理念からひっくり返さないといけない可能性につながるので、誰が猫の首に鈴をつけるんだ、と百家争鳴になるのは火を見るよりも明らか。

とはいえ、個別の事象ごとに対処を考えるのでは、いつか限界に突き当たる。せめて、「何をもって脅威とみなすか」という基本的な考え方だけでも明確にしておかなければならないのかなあと。

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