Opinion : 拠って立つ見識 (2023/3/27)
 

先日に降ってきた、どっちらけニュース。「EU の欧州委員会とドイツ政府が、2035 年以降も条件付きで内燃機関車の新車販売を認めることで合意した」。

以前に自著でも書いた話だけれど、欧州が「環境」をお題目にして自動車業界の構造変化を仕掛けているのは「欧州メーカーに有利になるようにゴールポストを動かす、一種のゲームのルール変更である」と思っている。この考えは今でも変わっていない。今回の件にしても、どうやら背景として、ドイツのメーカーからの突き上げがあったようであるし。

そういう事情まで考慮に入れた上で、「かかる状況下でクルマ屋として生き残っていくためにはどうすればいいか」と考える経営者と、「環境」という分かりやすい正義に釣られて「このビッグウェーブに乗っかって、環境重視型メーカーに変身するのが成功への近道」と考える経営者。さて、どちらが正解なのだろう。

今回の件、「合成燃料を使うのなら、内燃機関を載せたクルマでもよろしい」という話になっている由。こうなってくると、次には「何かの条件に合致していれば石油燃料でも認める」となる展開が考えられる。もちろん、その「何かの条件」は欧州車に有利な内容で。

ただ、別の展開もあり得るんじゃないか、と後で思い至った。なにせ、条件が「温暖化ガスを排出しない合成燃料を使う場合に限って」である。すると、「温暖化ガスを排出しない合成燃料」で欧州が有利になれるのなら、それを使うことを認めない理由はないよね、という話もあり得るんじゃないかと。

地べたの上に限った話ではなくて、お空の上でも SAF (Sustainable Aviation Fuel) というネタがある。SAF の原材料確保や供給で覇権を握れば、結果として SAF が主流になった航空界で強い立場をとれるのではないか、と考える人は、確かにいても不思議はなさそう。


いきなり話は変わって。

玉子が高値を呼んでいるせいなのか、「玉子の代替品が脚光を浴びている」というニュースがあった。「ああ、目新しい話とみると飛びつかずにはいられない、ブン屋さんの生態がモロに出ているなあ」と思った。

こういう話が出てくると、えてして本来の目的 (この場合なら、良質な動物性タンパク質の安定供給、あたりか) は脇の方に置き去りにされて、「代替○○」の追求に突っ走る場面が出てくるもの。「何のためにそれをするのか」という目的よりも、手段そのものが目的と化して、そちらにのめり込んでしまう。

そういう傾向があると、上でネタにしたクルマ電動化の話みたいな、「次に来るのは○○だ」という仕掛けにも、あっさり乗せられる傾向が強くなりはしないだろうか。拠って立つ定見をしっかり持っていないと、えてして流行りものに釣られたり、煽りに乗せられたり、手段にのめり込んだりしそうで。

たぶん、昨今の「ゲームチェンジャーという言葉の大安売り」も、そういう層が存在することの裏返しなんじゃないかと。「○○はゲームチェンジャーである」という煽りに釣られやすい人もいるんじゃないか、という話で。

そこで思い出したけれど。流行り物に乗っかった挙句に会社の名前まで変えてしまったものの、後になってあっさり (?) 放り出しそうになっている会社がどこかにあったような。なんとも定見のなさそうな話だなあと思った。誰のこととはいわないけれど。


「拠って立つ定見」。これをドクトリンと言い換えても良いのかも知れない。なにも安全保障の分野に限らず、企業経営でも個人の生き様でも、ドクトリンに類したものはあるんじゃないだろうか。

そういうものをきちんと持っている個人や組織は、傍目にはいろいろなことに手を出しているように見えても、その中で一貫する「ぶれない軸」ができる。と思う。

もちろん、その「拠って立つ定見」が変化することもあろう。ただしそれは、その場その場の流行りに応じてコロコロ変わるものでもないはず。もっと根源的なところで大きな状況変化があれば、それは確かに拠って立つものも変わるだろうけれど。

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