Opinion : 名車とは (2023/5/15)
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もしかして、だいぶ昔に似たような話を書いたかもしれないけれど、トリガーになるような話が耳に入ってきたので、改めて。書いている本人の見方・考え方が、以前とは違ってきているかもしれないし。
で。何の話かというと、最近「185 系電車は名車である」といっているキッズ (?) がいるらしい。
登場したときの経緯と、デビュー後のさまざまな見方・いわれ方・書かれ方を見聞きしている身からすると、「は ?」となってしまう。「これが特急型かあ ?」みたいないわれ方をしていたぐらいであるし、そもそも当初から「普通列車兼用が前提」ときたものである。このコンセプトからして "特別" 急行列車向けという色は薄い。
もっとも当節、「特別急行」といっているのは JR 北海道ぐらいのもので、実質的には「特急」という別の名詞、別の種別といえるかもしれない。
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とどのつまり、「君たち、引退を惜しんで名車に祭り上げているだけなのと違うか ?」と思ってしまうのは、デビュー当時を知るおっさんの感覚か。でもね、関西では同時期に 117 系が特別料金不要の新快速で走っていて、それと 185 系の違いといえば「デッキがあるかどうか」ぐらいのもんだったのである (ひでえ)。
鉄道車両に限らず、自動車業界でも艦船でも飛行機でも、頭に「名」と付けるのであれば、相応の条件はあろうに。と思ってしまう。それは何かというと、以下のようなあたりではないかと。
何か歴史に残る大活躍をした
後世に残る大きな変化を引き起こした
新ジャンルを開拓したり、新たなチャレンジに成功したりした
たとえば TEC 0 系は、こうした条件をみんな満たしている。もっとも、0 系という車両が、というよりは「東海道新幹線という仕組みそのものが」という方が正しかろう。そこにつながる歴史の 1 ページという意味でも、小田急ロマンスカーのイメージ作りに貢献したという意味でも、小田急 3000 形 SE 車もまた、まぎれもない名車。
いやまあ、185 系だって「はなから特急と普通列車を兼用するつもりで設計した」という新ジャンルを切り拓いたとはいえるけれども、それって評価されるポイントなんか ? という疑問は払拭できず。
と、ほとんどボロカスみたいな書き方になってしまったけれど、185 系が 1981 年に登場してから 40 年以上も使えたところは評価しないと。素材や構造に工夫して、長寿命化とメンテナンスフリー化を図る設計が広まってきていて、その恩恵を受けた形。ただ、それが名車の条件を満たす話かというと、うーん。
たぶん趣味人受けは甚だしく悪いけれども。エンジニアリングの観点からすれば 209 系はひとつの革命を引き起こした存在で、そういう意味で歴史に残る存在なのは間違いない。TEC 500 系も、実はあまり話題にならないところで大変革を引き起こしていて、そこはもっと評価されてしかるべき。
じゃあ「数が出た」はどうなんだ。という話は出てきそうだし、これが実に扱いに困る。こんな話まで持ち出すと、評価軸もいろいろあるんだなという話になる。そうなると、ますます「名車」の条件付けでモメそう。
とどのつまり、尺度がいろいろあるのはいいけれども、"名車" の大安売りだけはやめてよと。そういう話なんだと思う。安売りすると、名車という位置付け自体に価値がなくなる。
飛行機でいえば、たとえば DH106 コメット→707 と DC-8→747→777 という流れ。この中でも「大量輸送の革命」を起こしたのは 747 で間違いないけれど、いきなりそれが登場したわけではない。まず先輩がペイブメントを敷いてきたからこそ、であり、そこのところも正当に評価しないと。
727・737・DC-9 あたりと、その前段としてのカラベルの関係にも、似たことがいえそう。ちなみにカラベル、スウェーデン空軍博物館に行ったら ELINT 収集型の実機が置かれていて、少し感激した (初めて見たもんで)。屋外展示だったから、あまり機体の状態はよろしくなかったけれども。
となると、やはり「大きな成果を上げた誰かさん」とは別に「その前段として苦労して、ペイブメントを敷いた誰かさん」を評価するポジショニングも必要なんだろうな。
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