Opinion : 背骨を通すということ (2023/5/29)
 

ビジネスでも防衛力整備でもなんでも、「実現すれば理想的だけど、実現までには多大な時間と手間と費用を要する」解決策と、「完全に理想的とはいえないけれど、より早く、低コスト・艇リスクで実現できる解決策」が俎上にのぼり、どっちにするべきか、と悩む場面はありそう。


しばらく前に陸自のセミナーで喋ったときに、ここしばらくの持論であるところの「領域横断を標榜するなら、すべての戦闘空間をカバーする情報共有・指揮統制基盤が必要」という話をした。

ただし、「すでに既存の情報基盤・指揮統制基盤がある上に、改めてゼロ ベースで起こしていたら時間がかかりすぎる」「そんなら、既存のネットワーク同士を、ゲートウェイを介して相互接続する方が現実的ではないか ?」という話に持って行った。

そういえば 3 月の DSEI では、Lockheed Martin の DIAMONDshield にしろ、Systematic の SitaWare にしろ、「既存の指揮統制システムに取って代わるのではなく、その上に被せる形で領域横断を実現」といっていた。

また、Collins Aerospace の "connected batttlespace" にしても、「ゲートウェイを介した相互接続」を前面に出していたから、基本的な考え方は似ている。既存のモノをすべて御破算にしろとはいっていない。

これらはつまり、「既存のシステムを可能な限り活用することで、求められる機能・能力を、より迅速かつ低リスクに実現する」との考え方。モタモタしていたら当座の用に間に合わない、それぐらい事態は切迫しているんだ、と考えると、身震いがする話ではある。

それに、高い理想を掲げて、時間と費用をかけて「理想的なシステム」を構築していたら、その間に周囲の情勢が変わってしまい、理想的なシステムのハズが理想的なシステムでなくなる可能性も考えないといけない。

米軍における戦闘概念の移り変わりを見ていると、これはけっこうあり得そうな展開と思うこともある。ただ、概念が変わっても普遍的に必要とされる機能・能力はあるだろうから、「概念が変わる = すべて御破算で願いましては」になるとは限らない。

ただし実際のところ、米軍、とりわけ米海軍のあれこれを見ていると、掲げる看板が変わったからといって、いきなりまるで違う方向に行っているわけでもなさそう。むしろ、段階的に発展・変化させているように見受けられる。つまりは、revolution ではなく evloution。

となると、案外と「根底に通じている根っこの思想」は変わっていなくて、それをどのように具現化するかというところでチューニングが入り、変化が生じているのかも知れない。「培ってきた自らの強み」が、そうコロコロ変わるわけでもないだろうし。


となれば、「自分達がライバルと比べて有利なポイントはどこか」「目指すべき理想は何か」といった、いわば「背骨」の部分を正しく認識して一貫させることが大事なんじゃないだろうか。

それをきちんと見据えていれば、「理想の解決策」に代えて「当座の解決策」を優先するとしても、その「当座の解決策」を長期的に「理想の解決策」に整合させていくことになったとしても、その途上でフラフラしない。

たとえば上の方で書いた話でいえば、「すべての戦闘空間を一元化する情報基盤は不可欠」が背骨で、これは手段に関係なく譲れないポイントとなる。

逆に、きちんと「背骨」が通っていないと、その場その場の情勢や流行り廃りに釣られてフラフラすることになり、結局のところは何も残らないということになりはしないかと。

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