Opinion : 組織の重さ (2023/6/12)
 

先日の、とある夕食会の席で、「組織の重さ」が話題にのぼった。たとえば、「現場あるいは中堅幹部のレベルで何か問題意識を持つ人が出てきても、上層部の腰が重い」とか、甚だしきは「自分がこのポストにいる間は、失敗はしてくれるな」といいだす上層部の存在とか。

それはかなり酷い種類の話であると思ったけれど、そこまで行かなくても、改革・変革が動き出すまでに時間がかかってねえ、という類の話も。

構成員が多い、大きな組織になるほど、どうしても組織は "重く" なる。所帯が小さくて、かつ、明快な方向性を示して部下を引っ張っていけるトップがいる組織だと、逆に、機敏さが増す。

米海兵隊は比較的、自己変革能力が強い組織であると思っているけれども、これも、陸軍や空軍と比べて所帯が小さく、機敏さがある組織だから。なんだろうなぁと。


逆にいえば、組織が重たいから、トップが変わった途端にガラリとすべてひっくり返る、ということはなかなか起こらない。

アメリカの大統領選挙でも、日本の首相選任でも、えてして「○○が (大統領 | 首相) になれば変わってくれるに違いない」あるいは「××が (大統領 | 首相) になったら大変なことになる」という類の言説が、チョイチョイ見受けられる。

ところが、実際にはなかなかそこまで行かない。トップの下にいる組織が重いから、トップが一人変わった瞬間にガラっと動くことにはならない。

たぶん、大きな会社のトップでも事情は似たり寄ったりじゃないかと。組織全体が変革するまでには、トップが繰り返し、繰り返し、自分のビジョンを浸透させる努力をして、さまざまな施策を講じていかないと。それで何年もかかって、ようやく結果が眼に見えるようになってくる。万単位の社員がそう簡単に、コロリと方向転換できるわけでもないのだから。

その「重さ」がプラスに働くこともあれば、マイナスに働くこともあるのは、致し方ない。あまり機敏になって、その挙句に両極端に振れて回ってくれたのでは、却って周囲が迷惑する。機敏であるのは基本的に良いことであるにしても、ある程度の許容範囲というものはあるわけで。

組織が大きくなるほどに、「安定」を求める人が増えるであろうことは、容易に想像できる。それに、大きな組織は小さな組織と同じやり方では動かない。
だから、ベンチャー企業が成長して大企業になる過程ではどうしても、人が入れ替わり、体質も変わってくるんじゃないかと。


で。先日のお食事会のときに出た話では、「いきなりガラッと変えようとしても難しいし、まず中堅どころから動かしていって、その人達が上層部に上がったときに結果が出てくるようにと期待するのが現実的」といった話が出てきたと記憶している。

問題は、それだけの時間がないかも知れない場合。改革が間に合わずに致命的な事態に至ると、それは大惨事。

ところが、そこで急進改革派みたいになると、また違う方向で問題が起きてしまう。急進改革派はえてして、組織の内部に要らぬ軋轢を引き起こす。「自分達の理想が即座に実現しないのは怪しからん」といってヒステリーを起こす活動家は、軋轢を起こす典型例であるけれども、

企業だったら、大きな組織を小さな組織に分けて権限を降ろすとか何とか、いろいろ手の打ちようはある。それと比べると、国防に携わる組織を変えていくのは大変そうだし、実際、大変なんだろうなぁと。個人個人で問題意識を持っていても、よほど戦略と戦術をうまくやらないと、組織を変えるところまで持って行くのは難しい。いや、他のお役所も事情は同じか。

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