Opinion : サイバー防衛分野の人材確保について思うこと (2023/8/14)
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もう 9 年になるのか。と思ってしまうのが、病気をして 3 ヶ月ばかり入院させられていた一件。なにしろ、することがなくてヒマでヒマで困った。そこに叔父が、トム・クランシーの「米中開戦」を差し入れしてくれた。
実は、その入院騒ぎよりもしばらく前に買っていて、読了済みだったのだけど。しかし当然ながら、それは自宅に置き去りにしていたので、これぐらい分量がある小説の差し入れはありがたいもの。
その「米中開戦」では、北京が政府や解放軍と無関係を装うフロント組織を用意して、アメリカにサイバー攻撃を仕掛けてくる話が、本題のひとつになっている。それに対してアメリカ側で、大統領以下の政権首脳が「対抗するための人材を集めようとしても、みんな民間企業に行ってしまう」とぼやく場面が出てくる。
国の仕事が民間セクターと比べて安月給、という事情は、かの国も似たり寄ったりであるらしい。ミードあたり、どうやって人材を集めてるんだろうか。
なんでこんな話を持ち出したかというと、与党と野党の政治家が、サイバー分野の人材集めについてやり合ったとのニュースが流れてきたから。そして、民間セクターと比べて待遇面でハンデがあるのは、我が国も同じ。それでどうやって人を集めるんだという話になる。
ところが。これは前回に書いた話にも通じるところがあるのだけど、我が国ではえてして、「物量や資金力を駆使して正攻法で押すのはカッコ悪い」みたいな風潮が出てくる。たとえば鵯越の一件が持て囃されるのなんか典型例だと思うけれども、「リソースがない中で工夫して、奇手・奇策で解決するのが格好いい」という風潮。
それのバリエーションで、「報酬は安いが、やり甲斐があるからいいだろ」というのもある。そしてサイバー防衛分野について「給料が 1/3、あるいは 1/2 になったとしても、国防にモチベーションを持って来てくれる人たちはいるかもしれない」という論が出てきたらしい。げっ。
正直いって、待遇そっちのけで「国の護り」に燃えちゃうような人が集まってくる方が危ないんじゃないか。と、これは国防に関わる分野に特有の話であるけれども。
それとは別に一般論として、「ギャラ」の代わりに「やり甲斐」を持ち出して相殺しようとする時点で、ロクなもんじゃあない。
やり甲斐があろうが何だろうが、結局のところ、飯の食い上げになってしまったのでは、長続きしない。あるいはアウトプットの質が下がる。「事務次官より高いギャラは出せない」なんていっていたら、事務次官の年収の何倍もの経済的損失を食らうオチが見える。
ついでに書くならば、最初の採用時点だけではなくて、その後のキャリアパス整備や職場の環境作りはどうするつもりなんだろう、というのもある。
もっとも、ことにサイバー分野の場合、ギャラの問題だけでは済まないような気もしている。そもそも、こういう分野で能力を発揮できるような人材が、なかなか育たない風土があるんじゃないか。育ったとしても組織の中で潰されてしまうんじゃないか。そんな懸念があるから。
ちょいと極端なことを書けば、異才・鬼才に奇人変人が集まることになったとしても、きちんと結果を出し続けていればそれで良し。と、それぐらいのことができないとダメなんじゃないかという話。ホワイト ハッカーが集まって、個人の能力を発揮した結果として国の護りに役立ちましたと。それでええやんかと。
でも、日本のお役人は、なかなかそういう考え方ができないように思える。たぶん、異才・鬼才に奇人変人が集まる状況を考えただけで、もう、耐えられない・我慢できない… そんな人が少なくないんじゃないかと。そんな先入観がある。
それに、異才・鬼才に奇人変人が集まったら、絶対に外部からグチャグチャ文句をいう人が出てくる。そういうときに、上の人間がちゃんと防波堤にならないといけない。そういう覚悟ある ?
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