Opinion : 国防意識とは覚悟を持つことでは (2023/9/4)
 

先週は、スウェーデンを訪れていたせいで休載。本来、空軍のエアショーをメインに据えるはずだったのだけれど、5 月末に中止が決まってしまい (たぶんプーのせいである)、ミリタリー系の博物館まわりと乗り鉄、あとは町歩きを少々という仕儀になった。

でも、これはこれで面白かったし、当初は予定に入れていなかったアルセナーレンに行けたのもよかった。何事も、ないものねだりを始めたら際限がない。与えられた条件の中で最善を尽くすようにしないと。とはいえ、余計な戦争をおっぱじめて欧州の安全保障情勢を緊迫化させたプーは許さん。


で。ストックホルムに Armemuseum という施設がある。日本語では一般的に「陸軍博物館」と書かれるし、実際、スウェーデン陸軍がメイン。ただしそれだけでは終わっていないし、単なる装備品展示場でも広報施設でもない。

ひととおり見て回った印象としては、「戦争が起きれば悲惨なことになるという現実を真正面から突きつけた上で、それを防ぐためにどうすればいいのか」を問うてくる施設だなと思った。

今でこそ、「厳正中立」政策のおかげで平和の象徴みたいないわれ方をすることがあるのがスウェーデンという国。でも、分かっている人は分かっている話で、単に「うちは中立です」という旗を振るだけではなく、武力の裏付けがあっての厳正中立。

もっとも、本当に「厳正中立」かというと疑わしいところもあって、第二次世界大戦より後についていえば、「限りなく西側に近い中立」という方が実情に近いかも知れない。といっても、それがいけないというつもりは毛頭ない。

よしんば「厳正な中立ではない」としても、それを責め立てるのもお門違い。Armemuseum にしろ、4 年前にも訪れている Flygvapenmuseum (いわゆる空軍博物館) にしろ、過去の歴史を引き合いに出しつつ、スウェーデンが中立と自国の存立を護るために、どんだけ苦労したかを見せてくる。

ことに第二次世界大戦のとき、スウェーデン (に限らずスイスも同じだけど) の周囲ではみんな戦争をやっていた。そうなれば中立国にもいろいろ火の手が飛んでくる。スウェーデンの目と鼻の先を独海軍の戦艦が航行したり、隣国から連合軍の関係者が越境してきたり、独軍が領内通過や通信回線の使用を求めてきたり。

「そんな要求は蹴飛ばせばいい」というのは外部のお花畑的発想なんであって、蹴った結果としてどうなるか、まで考えるのが外交というもの。だから通信回線についていえば、スウェーデンはドイツに対して使用を認めたけれども、一方ではその内容を盗聴した。

スウェーデンはドイツに高品質の鉄鉱石を輸出していたけれども、一方では BOAC のモスキートがロンドンとストックホルムの間を行き来していたし、ノルウェーの反ナチ工作員がスウェーデン経由でイギリスに渡った事例もあったと聞く。

これを二股膏薬と難詰するのは安直もいいところで、自国が生き延びるために、すっごいデリケートな綱渡りをしたというのが正しかろう。ひとつ判断ミスをすれば大惨事になりかねないような。

そういう過去の歴史を踏まえた上で、「国家と国民が生き延びるためには、ここまでしないといけなかったのだ」という形で、ある種の覚悟を突きつけて来る施設ではないか。と、そんな受け止め方をして帰ってきた次第。


Flygvapenmuseum (いわゆる空軍博物館) の地下には、「カタリナ事件」のときに撃墜された DC-3 の残骸が展示されている。そこで博物館のスタッフが、来訪者にカタリナ事件の経緯について説明している現場に、たまたま居合わせた (ありがたいことに、スウェーデン語ではなく英語で説明していた)。

こういう惨事があったという現実、命がけの情報収集は国の護りのために不可欠であるという現実をきちんと見せることもまた、ひとつの「覚悟」を問うことなのではなかろうかと。

つまり、今回のスウェーデン行きで得たことのひとつは「国防意識とはとどのつまり、現実と向き合った上で覚悟を決めて地道に取り組む」ことなんじゃないかということ。見た目の勇ましい心掛け云々ではなくて。そこで派手な一発芸、銀の弾丸を追求するのは有害無益。

ながらく、そうやってきたスウェーデンが方針を変えて NATO 加盟をいいだすぐらいだから、それぐらい今の欧州情勢はヤバいってことなのでは。と考えると、身震いがする。

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