Opinion : 指揮官先頭論の落とし穴 (2024/1/8)
 

先日に阿波徳島の学習辞書をリセットしたら、「指揮官先頭は正解なのか」のつもりが「指揮官戦闘は政界なのか」と変換されてきた。以下の内容、確かに政界がらみの話ではあるけれど。

で、何をいいたいのかというと。大災害が起きるたびに「首相は現地入りして陣頭指揮に当たれ」みたいなことをいう人がいる。でも、それって正しい解決策なの ? というのが今回の本題。


指揮官先頭。確かに見栄えはいい。誰とはいわないけれど、指揮下の兵士が最前線の劣悪な環境で悪戦苦闘しているときに、指揮官が後方の避暑地に陣取ったまま動かないのでは、そんな指揮官を部下がどういう目で見るかは火を見るよりも明らか。統率になっていない。

そういう意味では、指揮官が最前線に出て「我に続けえ」とやる方が分かりやすいし、そんな指揮官を部下は頼もしく思うことが多いだろうなあ。とは思う。ただ、それは分隊〜大隊ぐらいまでの話じゃないか。海の上だったら艦長、空の上だったら飛行隊長ぐらいのレベル (宇宙の話は知らん)。

それより上のレイヤーでも統率は不可欠な要素であるけれども、指揮下にいて動かす人や装備が増えれば、「組織の管理運営」という要素が大きく入ってくる。前線部隊に対しては、達成すべき任務だけでなく、そのために必要となる人員・装備・物資・情報を適切に与えなければならない。

それは上級指揮官でなければできない仕事。というか、最前線の指揮官にそういう分野の心配をさせてはいけない。最前線の下級部隊指揮官が任務に専念できるように、必要なお膳立てを整えることができるのは、上級指揮官だけ。

「だから指揮官は最前線に出て、状況を自分の目で見なければならない」といわれると、もっともらしい話に聞こえてくる。でも、すべての前線をくまなく見て回るのならともかく、一部の状況だけをピンポイント的に見るだけで、全体状況を把握してリソースを適切に配分することができるんだろうか ?

疑問である。

昔と今の「旗艦」に求められる機能・能力の違いを考えてみてほしい。昔の旗艦は指揮官とその幕僚が乗るフネ、というぐらいの話で済んだ。指揮下の艦はみんな視界範囲内にいるから、手旗や旗旒信号で意思伝達はできる。

でも、広い範囲に陸海空の資産が散らばり、それらを統合指揮するとなると、指揮官が仕事をするためにはセンサーと通信回線が必要不可欠。だから「指揮統制艦」なんていう、通信機器とコンピュータの塊みたいな艦ができた。いわゆる戦闘艦と比べると勇ましさに欠けるから一般に注目されることは少ないけれども、C4I の重要性はいうまでもない話。

だから、指揮官はまず、全体状況を把握できる場所、全体状況を把握するための道具立てが整っている場所にいないと仕事にならない。


つまり「指揮官先頭」論がどこまで通用するかは、その指揮官が受け持つレイヤー次第ということ。艦長・中隊長と同じようなノリで大艦隊・大部隊を指揮しちゃった提督や将軍が存在したのは事実であるけれども (あえて誰のこととはいわん)。

下手したら、自分が出張っていって目の当たりにした「ミクロな現実」に囚われて全体像を見失うとか、マイクロマネージメントの落とし穴にはまるとか、そういう危険性もあるわけ。誰のこととはいわないけれど。

C4I システムが高度化して、上級指揮官が最前線の状況を細かく見られるようになると、どうなるか。それは状況の把握・認識に有用となる一方で、上級指揮官が要らぬ口出しをする可能性も高くなってしまう。そこで「達成すべき任務は下達するし、必要なリソースは用意する」けれども「任務を達成するやり方にいちいち口を出すことはしない」のが、偉い指揮官なんじゃないだろうか。

分かりやすくいうと。クルマの販売店に自動車メーカーの社長が乗り込んできて、商談のやり方に横合からいちいち口を出して、それでうまくいくもんなの ? そういう話である。

もっとも、状況が見えている上で口を出すならまだマシで、状況が見えていないのに細かいことまでいちいち口出しされたら、もう最悪ってレベルじゃ済まない。そんな「指揮官先頭」は勘弁して。

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