Opinion : いわゆる政治案件あれこれ (2024/2/12)
 

「戦争は形を変えた政治の延長」とか「軍事力は政治の手段のひとつ」みたいな話があって、実際、軍事と政治は不可分の関係にある。それは当然ながらそうなのだけど、そこでは「政治の領分」と「軍事の領分」を区別することも必要。

そこで、片乗り入れにしろ相互乗り入れにしろ、相手の領分に過剰に口出しをするような事態が常態化すれば、とんだ害悪の元になってしまう。実際、過去にどこかの国では、そんな話があったように思うけれども。


個人的には、政治の領分とは「自国がどのようにして生き残り、発展していくかを考えること」と「それを実現するために、手持ちのリソースをどのように配分していくか、足りないリソースをどのように確保するか」、そして「国家として護るべき利益線をどこに引くか」を明確にすることだと思っている。

で、永田町は果たしてそれを実現できているのか。どうなのか。どう思う ?

そして、たとえば「国家として護るべき利益線」が脅かされることになったときに、それをどう護るかを考えるのは軍事の領分。最近、しつこく各方面で書いているように、そこから「何を達成するべきかを明確にする」「それを実現するために、何をどう活用するかという思想を明確にする」とブレイクダウンしていく。

そこでようやく「道具」の話が出てくる。「何をどうやって達成するか」が分からないのに道具の用意を先走らせて、それで適切な道具が揃うのか。

いささか極端で乱暴な例え話をするならば、「木製品を活用するのが最良と分かったのに、ハイテクそうでクールでセクシーだから、オートクレーブを先に買ってきて据え付けちゃった、テヘッ」となっても、単なる無駄金の支出で終わってしまう。

ともあれ、「どういう問題解決をするか」という思想なしに「お買い物」を優先させれば、ミスマッチが起きて不思議はない。ましてや、そこで政治的思惑が先行して、政治サイドから「あれを買え、これを変え」と口出しするような羽目になれば、制服組が大迷惑する。

もちろん「政治と軍事は不可分の関係」だから、政治的な影響がまったく入り込まない装備調達なんていうのは、なかなか実現できないかも知れない。なにも我が国に限らず、他国でも、政治的配慮が制服組を困らせたり、振り回したりする種類の話はある。ただ、それも程度問題。

あえて具体的な名前は出さないけれども。実際問題として、「何をどのように使って何を実現するか」という思想や定見の欠如、そして政治サイドからの要らぬ介入で振り回されて右往左往した装備調達案件ってあるわけでしょ。おまけに、それを押し付けられる現場が、あまり幸せになれそうにないやつ。

結果として、それは国家のリソースを無駄に冗費することになるし (わざと屋上屋を架すような書き方をした)、仮想敵国がほくそ笑む事態にもなり得る。それだけでなく、貴重な時間を無駄にしている。政治案件の害毒を見る思いがする。

ただ、以前に書いたように Z は政治案件になると腰が引ける傾向があるような、ないような。であれば、それを利用して、制服組サイドから「政治案件」に祭り上げて Z を納得させてしまう。そんなシナリオが成立し得るものだろうか。知らんけど。


ここまでは、装備調達みたいな「モノ案件」の話を念頭に置いて書いてきたけれど。実のところ、それに限らず「政治的思惑」だけが先行して後世に害毒を残した事例、他にもあるように思う。

あえて名指しして書いてしまうならば、たとえば「基盤的防衛力整備」というやつ。明確に誰かを名指しして波風を立てることを避けた、政治的には正しい代物であるかも知れない。しかし、この考え方が残した置き土産は、果たして好ましいものであったか。その辺について、自分なりに思うところを書いた話を含む記事が、近いうちに世に出る予定。

あと、あれだ。「飛来するミサイルはすべて、一発たりとも残さずに撃ち落とさなければならない」という考え方があったとする。それは政治的には正しいかも知れないけれど、軍事的・技術的見地からすれば実現不可能だし、リソースの無駄遣いにもなる。

それなら、「こういう事情だから、人口密集地帯に落ちそうなやつ、落ちたら被害が大きいやつを優先して撃ち落としますよ、結果として空地に着弾してクレーターができるかも知れませんよ」ということを説明して、納得してもらうことこそが、政治の仕事。違う ?

Contents
HOME
Works
Diary
Defence News
Opinion
About

| 記事一覧に戻る | HOME に戻る |