Opinion : 民間航空機のペット同伴問題に関する徒然 (2024/2/19)
 

年明け早々に発生した JL516 と海保機の衝突事故。そして、その後で勃発した「ペット論争」。

身も蓋もないことを書けば、JL516 の乗員・乗客が全員、無事に脱出に成功できたから、その代わりとなる「お涙ちょうだいネタ」としてペットの話が持ち出されたようにも見える。

ただ、すでにあちこちでいわれているように、ここで「同伴を認める」に舵を切るのは大反対。


JAL の機内安全ビデオでは、「脱出時に荷物は持たないでください」を、かなり強い口調で強調している。その理由まで、ちゃんと画入りで説明している。

では、ここで「ペット同伴可」になったら、何が起きるか。「この子は家族も同然、置いていくことなんてできない」とゴネる人が出るのは目に見えている。そして場合によっては、「これは荷物ではないから、持って行く」と屁理屈をこねる人だって出てきそうではある。

そうなったら乗務員は大変なことになってしまう。ただでさえ、「客室乗務員とは保安要員である」という認識ができていない人がいるというのに。そして乗務員としては、脱出を肯んじない乗客がいたら、なんとしても機外に連れ出さなければならない。そこで手間取れば、件の乗客は乗務員を巻き添えにして心中することになりかねない。

当の本人が「私はペットと心中する」と言い張るだけならともかく (いや、それだってどうかと思うが)、乗務員まで巻き込む責任をとれるのか。そんな覚悟ないでしょ。

ついでに書くならば、たとえば通路で押し問答を始めるとか、通路側の席に座っている人が押し問答をするとかいうことになれば、それは乗務員に加えて他の乗客の生命まで巻き込む事態になる。

そこでもしも。もしも、乗務員が件の乗客を置き去りにして機外に出るようなことにでもなれば、今度はマスコミから非難の大合唱が巻き起こることは容易に想像できる。職業意識からして、実際にはそんなことにならないだろうけれど。

結局のところ、どっちに転んでも、誰にとってもいい結果にならない。

安全に関わる諸規則というのは、過去の経験の積み上げによってできて、熟成されてきた、いわば血で書かれた教訓みたいなもの。それを無視して、安全よりもお気持ちを重視すれば、結果としてみんな不幸になる。


どうしても機内への同伴可にするというなら、せめて、「非常脱出時は置いていきます」という誓約書を用意して、搭乗前に一筆入れさせるぐらいのことをする必要はあるんじゃなかろうか。それだって、いざとなれば無視する輩は出てくるかも知れないけれど、少なくとも事前に「覚悟」を決めさせる意味はあるだろうから。

これは、一種のウェーバー カードみたいなもの。エアラインの側としても、それぐらいの自衛措置は講じないと、今度は会社が社員を護れなくなる。そうなれば社員の士気にも関わる。

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