Opinion : Red Team (2024/4/22)
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どこの会社のこととはいわないけれど。
現時点で直面している問題や課題を解決しようとして、新たな施策を講じてみる。ところが、それが裏目に出てしまい、功を奏するどころか、悪用されて逆効果。利用者の憤懣は溜まるばかり。そんな事例が実際に発生している。どこの会社のこととはいわないけれど。
しかも、それが一度だけならともかく複数回積み重なる。なかなか物事がうまい方向に回っていかないので、さらに何かやっては悪用されてドツボにはまる。端から見ていると、そんな感じがしている。そういう会社に課金したいですか、といわれれば、否定的になってしまう人が多かろう。
どこの会社のこととはいわないけれど。
どんなテクノロジーでも製品でも、アイデア次第で、善用されることもあれば、悪用されることもある。人の命を救うこともあれば、人の命を奪うこともある。考案あるいは開発した当事者が「これこそ真に平和的な技術 !」と思ったのに、蓋を開けてみたらしっかり戦争の役に立ってしまっていた。そんな事例もどこだかにあったはず。ダイナマイトだったかな。
あと、規制とか制度とかいったものも、往々にして抜け穴探しが始まる。その極めつけはモータースポーツのレギュレーションで、ちょいと過激な言い方をすれば、レーシングカーの設計は「レギュレーションの抜け穴探し大会」みたいなところがある。
軍縮条約だって例外ではない。保有できる空母のトン数を規制したら、「有事の際に空母にバケラッタする軍艦」を考え出して対抗する事例が発生した。もっと最近の話になると、核軍縮条約における「輸送手段の規定」にちょっとした抜け穴を見つけ出した誰かさんがいて、結果的に画期的な新兵器が世に出てしまったこともある。
法規制でもその他の制度でも、はたまたモータースポーツのレギュレーションでも軍縮条約でも、策定する側は何かしらの前提条件を持っていて、「それならこうやれば規制できる」と考える。でも、悪知恵 (と書くと語弊があるか) が働く人はどこにでもいる。
すると、順方向の思考、あるいは性善説みたいなのにだけ立脚して物事を考えたのではアカンのではないか。そんな話になりそう。何か新たなアイデアや製品やテクノロジーが出てきたときに、逆方向の思考、性悪説みたいな観点から「も」眺めてみる。それが不可欠なのであろうなと。
それはつまり "Red Team" のこと。この言葉の発生源は米軍であるらしい (ソ聯軍では "Red Team" がデフォルトになってしまう)。たとえば、指揮官が出した作戦構想やその他のアイデアに対して、他の幕僚とは逆の観点から眺めて、違う立場からの視点を提供する。そういうポジション。
たぶん、保安とか警備とか保全とかいう分野では、これがすごく大事になると思う。実際に攻撃する立場から物事を見ないと、どこをどう攻撃するかは見えてこない。サイバー セキュリティの分野にホワイト ハッカーが欠かせない理由。
ただ、"Red Team" を置け、というだけならサルでもできるけれど、実現するのは案外と難しい。
まず、同じ組織の中からそういう人材を見つけたり育てたりできるのか。もともと、皆が似たようなマインド セットを持って仕事をしていれば、なかなか異端の人材は育ってこないし、いても冷や飯を食わされることになりがち。
よしんば、うまいこと発掘したり育てたりして "Red Team" に据えることができても、その後の待遇やキャリアパスで割を食うことになれば逆効果。キャリアパスがどん詰まりのポジションに、わざわざ喜んでやってくる物好きはそうそういない。
もうひとつの問題は、指揮官なり社長なりが、"Red Team" に対してちゃんと聞き耳を持てるかどうか。ボスが出したアイデアに対して「いや、それはこういう悪用が懸念されます」などと指摘したときに、ボスがそれを聞き入れられるか。
もしも、異論や諫言に耐えられなくて、そういうことをいう人達をどんどん追い出してしまい、甘言ばかりいう人間だけ残すようなボスだったら ? そんな人の下で "Red Team" が機能できるとは思えない。
打ち手が次々に裏目に出て問題解決につながらず、そこで窮してトンチンカンな方策を打ち出して、また顧客にそっぽを向かれて。そんなことになったら悲惨。
どこの会社のこととはいわないけれど。
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