Opinion : 目立たない仕事にも光を当てるということ (2024/6/24)
 

NHK の「プロジェクト X」でスバルの EyrSight を取り上げたときに、重要な役割を果たしている日立の名前が全然出てこなかった、という話を目にした。うちにはテレビがないので、当然ながら見ておらず、伝聞情報だけれども。

ただ、この件に限らず、「世間に知られているのはプライムだけ」という話はたくさんある。

自動車メーカーの名前はみんな知っていても、そこで枢要なキー コンポーネントを握っているサプライヤーの名前まで知っている人が、どれだけいるだろう。あるいは、サプライヤーの名前まで表に出てくることが、どれだけあるだろう。

自動車に限らず、鉄道車両や航空機やウェポン システムも同じ。電気車の制御装置やブレーキぐらいなら、それを手掛けているメーカーの名前が表に出てくるものの、腰掛やテキスタイルになると、一気に露出が減る。よほど興味を持っている人でもなければ、手掛けているメーカーの名前は知らない。

F-35 のプライムは、いわずと知れた Lockheed Martin Corp. だけど、たとえば「データリンクのアンテナを作っている会社はどこか」となったら、大半の人がフリーズしそう。ミサイルだって、プライムはみんな知っていても、たとえばロケット モーターの製造元だったら ?

なお、「プロジェクト X」という番組そのものに関する話は措いておく。というか言及したくない。


この手の話に限らず、実は「あまり知られていないけれども枢要なところを手掛けている」会社がたくさんあって、それで初めて世の中が回っている。知られていないと、「仕事をする上での張り合い」はもちろんだけれども、人集めの面でも苦労することにならないだろうかと思ってしまう。

たまたま、自分は物書きの仕事をしているけれども、機会を見つけては、「実は、○○はこの会社が手掛けてるんだよ」という話を取り上げてきている。ただ、そういう話になると、冒頭の EyeSight の番組みたいな場面で、単純に制作側を叩くのに躊躇する部分も出てくる。

もちろん、番組制作側が「主役のスバルのことしか眼中になかった」という可能性もある。ところが実際のところ、プライムがサプライヤーの名前を表に出すのを嫌がるとか、サプライヤーの側が出たがらないとかいうことも起きる。ただし後者は、いわゆる引っ込み思案みたいな話だけでなく、プライムに気兼ねして、というのもありそうな話ではある。

だから、できあがった番組だけ見て「サプライヤーを無視するなんてプンスカ」となるのは、「ちょっと待って」と。そうなった背景事情は、実はいろいろ考えられるわけだから。

とはいうものの、「目立たないところで大事な仕事をしている」無名の人々、無名の会社を大事にしないとダメよね。と、これはホント。

サプライヤーを表に出したがらないプライムがいたら、あるいはそういうプライムに気兼ねして表に出たがらないサプライヤーがいたら、社会全体から見たときに、ある種の損失じゃないのかなあと。

実は契約情報ウォッチングの楽しみのひとつとして、この「へえー、○○は実は△△が作ってたんだー」を知る機会につながる件がある。たとえば、Arleigh Burke 級駆逐艦の減速ギアボックスを手掛けているメーカーを知る機会なんて、他になかっただろうし。

ただしこれは、官給品 として支給するために官が直接発注したから表に出るわけで、プライムからの発注だったら、当事者がいわない限り、表に出ることはないだろうけれど。


仕事でも勉強でもモチベーションは欠かせないけれども、ことに仕事の場合、「自分がこれをやったんだ」といえるもの (必ずしも物理的なモノとは限らない) を世の中に残せたら、こんな幸せなことはない。そんな大量になくても、ひとつだけでもいい。

ただ、サプライヤーという立場では、完成品そのものではなく、その中の一部ということになる。すると相対的に目立たないし、スポットも当たりにくくなってしまう。差し支えのない範囲で、そういう話を表に出していくことは、自分の仕事におけるテーマのひとつ。

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