Opinion : 心地よく響いてしまうナラティブの危うさ (2024/7/22)
 

先日、イタリアの ETR300 を「パノラマカーの真似」呼ばわりしている人がいるという話を聞いて、目が点になった。ETR300 にインスパイア (というのかしら ?) されて、パノラマカーや NSE の出現につながったという経緯は「常識」の範疇だろうと思っていたら。

もっとも、これをもって「歴史修正主義者め !」と吹き上がるのも、また違うかなあと。単に知らなかっただけという可能性が高いだろうから。と、冷静に構えていられる人ばかりとは限らないか。

鉄道でもミリタリーでも何でもそうだけれども、なまじ自国に対象や情報が多く、充実してしまうと、なかなか外国にまで目が向かないのはよくある話。それはそれで「どうなんだ」と思うけれども、わざわざ外国のものにまで目を向けるトリガーが何かなければ、目が向かないのも無理はない部分はある。

そういう状況下では自国のものに関する情報が先に入ってきて、かつ量も多くなるのは仕方ない。すると、後から存在を知った外国のものについて「真似したな ?」と思ってしまう可能性は否定できないかと。その勘違いをそのまま信じ込んでしまうと、それはさすがに弊害が出てくる。


といいつつも、「自国のものが世界一」「自国のものが世界に先駆けた先駆者」というナラティブが心地よく響き、受け入れられやすいのも、また事実ではある。だから、そういうナラティブを意図的に商売にする人が現れても不思議はない。

先の「前面展望車のルーツ」にしても何にしても、「そんなん、ちょっと資料を当たってみれば、すぐに結論は出る」という現実はある。あるけれども、当たる資料を間違えたら話にならない。

さらに。そういう状況下で、いわゆるひとつの出羽守みたいな人が出てきて「海外のものがいちばん、日本のものなんてク〇」などといって極端な「下げ」を展開すれば、どうなるか。それを聞いた側には「なにぃ !?」と反発心が沸き上がり、吹き上がる原因を作ってしまう。結果として、意固地になっての不毛な大バトルに至るやも知れず。

ことにネット上でのやり取りが一般化したことで、この手の対立軸は二極化が激化したんじゃないかと思っている。どうしても、穏健な論、穏当な論よりは、極端に走った過激な論の方が目立つし、心情を刺激しやすいから。たぶん、さまざまな趣味や政治などの話題について見られる現象ではある。

となると、「拡散したい ! と思った情報ほど、拡散しない方がいい」の法則と同じで、むやみに心地よく響くナラティブ、むやみに心情を刺激するナラティブ (それはプラスのものもマイナスのものも、両方) も、みんな「ちょっと待て」とブレーキをかけた上で見るべきであるのかもしれない。

昨今、意図的にそういうナラティブを展開して、たとえば動画の再生数を稼ごうとするような輩だって、いても不思議はない。いや実際にいるんじゃないのかなぁ。

何でもそうだけれども、広い範囲に目を向けてみて、優劣抜きで「違う発想、違う考え方でやってる人もいるんだなあ」と知ってほしい。と、いち物書きとしてはそう思うのだけれど。


そういえば別件で。最近、あちこちで出現している「キハ 40 一族の、赤とクリームの 2 色塗り」について、これがデビュー当初の姿だと思っている人もいるらしい。えええ !?

といってもこれは、「朱色一色ではなくて 2 色塗りがオリジナル」だからといって、誰かがいい思いをするとか得をするとかいう種類のものではないし。単に「知らなかったのだろうなあ」で済む話ではある。1970 年代に出現したクルマのオリジナル状態を知っている人といったら、相当に年齢層が上になるのは仕方ないし。

でも、知らなかったのなら知らなかったで、「新たな知識を得られて良かった」となって欲しい。いっそ、この手の話がトリガーになって「DD51 の最初の塗装はだなあ」とかいう話まで出てきたら、それはそれで面白い展開ではある。

何かひとつのキーワードをトリガーとして、ハイパーテキスト的にさまざまな世界が、さまざまな情報がリンクして、広がっていくのは楽しいよ ?

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