Opinion : 切り取り報道と見出し詐欺 (2024/7/29)
 

なんか最近、新聞記者ないしはその周辺の方々が「自分たちの仕事のやり方の正当性」を SNS で発言しては燃える事例が散見される。

自著で書いた話に通じるところであるけれども、状況が変われば「ゲームのルール」も変わるわけで、そこで「従来のやり方を押し通そうとする」「従来のやり方の正当性に固執する」は、いささか悪手ではないかと思うのだけれど。

本当にデキる人なら、状況の変化に合わせて柔軟に打ち手を変えられるはず。そう信じている。


最近になって燃えた事例だと、政治家や企業トップの発言に関する「切り取り」の正当性を主張するものがある。いわく、ニュースバリューを考えて切り取るのは正当であり、切り取られて困るような発言はするなと。まあ、そんな文脈であった。

発言切り取り報道の事例が後を絶たない現状からすれば、発言する側も注意しないといけない。そういう困った現実はある。

だからといって、キャッチーなところだけ切り取った挙句に、本来の文脈とはまったく異なる話に誘導する、あるいは本来の文脈とはまったく異なる解釈を誘発する行為が、正当化されるわけではない。

ちょうどこれを書いている日の朝、読売の見出しでこんなのがあった。

石川県の馳知事「所得の低い方が 1 次避難所で滞留」…都内の会合で発言

ところが記事本文を引用すると、こうである。

「自宅にも戻れない、障害のある方など、所得の低い方が 1 次避難所で滞留している。この方々をいかに支えていくかも私どもの使命だ」とあいさつした。

本文では、発言内容を正しく伝えている。それはいい (というか当たり前のこと)。しかし問題は見出しで、この見出しだけ見て頭に血をのぼらせる人が続発しても、なにも不思議はない。いっちゃなんだが見出し詐欺。

もっとも、読者を引き込むのに見出しが重要なのは事実ではある。自分だって、ヘッドラインをザーッと見ていって、気になった記事を拾って読んでいるのだから、それは分かる。

分かるけれども、「読み手の感情をつついて刺激して、記事本文を読ませることができれば大勝利。後は野となれ山となれ」みたいな見出し詐欺が横行すれば、結果的に自分らのところに利息をつけてツケが回ってくる。そういう自覚は要る。


切り取り手法は、報道関係者だけが一次ソースを独占していて、それをどう料理して出すのも書き手の考え次第… そういう時代だからこそ通用したやり方。今はプレスリリースや、場合によっては transcript まで、誰でも見える形で公開する御時世なのである。

となると、そのことを前提とした上で「記事にどういう形のバリューを持たせていくか」が書き手の課題であり、いつもウンウン悩んでいるところ。

といっても、「関係者から直に聞き出した話」という一次ソースは依然として、報道関係者のもの。うちでも「直に聞いたけれども以下略」みたいな話はいろいろ溜まっている。ただ、それをどう扱うかで、書き手の良心や識見が問われる。批判的に書くにしても、本来の文脈を踏まえた上でやらないと。

発言の切り取りによって本来の話の文脈をひん曲げて批判につなげるような真似をするのは、「本来の文脈通りでは叩けないから切り取りに頼りました」と、書き手の力不足を告白しているようなものではないのかと。

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