Opinion : 関係なさそうな知識が話の幅を拡げる (2024/9/23)
 

個人的な持論で、「聖書とギリシア神話は、欧米の軍事を理解する上での基礎教養」というのがある。

別に知らなくても理解はできるだろうけれど、たとえばウェポン システムや艦艇の命名に際して、聖書やギリシア神話に出てくる話が絡む場面がチョイチョイある。

そこで、何も知らないと「フーン」で終わってしまうけれども、ベースになる知識が多少なりともあれば、「なるほど、それでこういうネーミングにしたのか」となる (こともある)。


たとえば Rafael Advanced Defense Systems Ltd. の "David's Sling"。これをカタカナで書こうとすると、いつも "'s" の扱いに悩まされるネーミング。しかし、あくまでこれは、ダビデがゴリアテをやっつけるときに使った投石機に由来するネーミングだから、ただの "Sling" では意味不明。"David's Sling" でなければならない。

そして、「ダビデがゴリアテをやっつけるときに使った投石機に由来する」と分かっていれば、このネーミングに込められた思いのようなものが見えてくる。ような気がする。それが本当に事実通りなのかどうかは知らないけれど、ありそうな話ではある。

SS-N-2 (P-15) 艦対艦ミサイルに NATO が付けたコードネーム "Styx" は、ギリシア神話由来。意味としては、冥界の大河、またはそれを神格化した女神のこと。だいたい NATO がソ聯のウェポンに付けるコードネームは、ちょいと悪意のようなものを含んでいることが多いけれども、ことステュクスについては、その辺が微妙。

というのも、ギリシア神話の中では女神ステュクスは強大な力の持ち主で、神々すらも罰する権限があるから。あと、ステュクスの水に触れると不死になるという話もあって、これが今度は「アキレスのかかと」の話につながってくる。

じゃあ、英海軍の軽巡アキレスは不死だったんかい、とかいう話に飛んでしまうけれど、それはともかく。とはいえ、この軽巡がギリシア神話にちなんだ艦名のひとつだったのか、ということは分かる。英海軍には他にも、ギリシア神話由来の艦名がいろいろある。

こんな風に、ハイパーテキスト風に話がどんどんあらぬ方向に転がっていくのは、ギリシア神話というベースがあるから。知らないと「SS-N-2 のコードネームは Styx である」で話が止まってしまう。

ついでに悪乗りすると、空対空ミサイルの IRIS-T (InfraRed Imaging System - Tail/Thrust-Vector Controlled)。「もしかして、この場合の IRIS ってギリシア神話の女神イリスにひっかけたんかな ?」と考え始めると話が膨らむ。

そんなことを思ったのは。イリスは「虹の女神」であるけれども、英語では「虹彩」と同じ綴りの語だから。つまり何かを「視る」わけで、そこに画像赤外線シーカーとの共通性が出てくる。

そこで「そんなら、略して Iris になるようなバクロニムをでっち上げてはどうか。ちょうど、赤外線誘導ミサイルだから Infrared の語は使えるし」と考えたのだとしたら、なんだか楽しい。


なんていう調子で悪乗りを始めると、ブレーキが効かなくなってしまうけれど。こんなお遊びができるのは、ギリシア神話をちょっとかじったおかげ。それだけで世界がいくらか広がる。そういう楽しいこともあるねんで。

直接的な趣味関心の対象だけでなく、一見したところでは関係なさそうなところに手を広げることが、結果として趣味関心の「基礎杭」を 1 本増やすこともあるかも知れない。といったところで、今回はこの辺で。

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