Opinion : 大統領選でも何でも、とりあえずもちつけ (2024/11/4)
 

防衛業界がらみで、ちょっと面白い話を聞いたことがある。

日本で、次の年度の防衛予算案がまとまって国会に送られると、アメリカの業界関係者で「さあ、これからが大変なんじゃないか」と心配する人がいるのだそうだ。

でも、我が国では御存じの通り、国会に送られる前の段階で「勝負はついている」から、国会まで話が進んでから、いきなり内容がガラッとひっくり返るようなことは起こらない。

ところがアメリカは事情が違う。前にもどこかで書いたことがあったような気がするけれども、最初にリリースされた予算教書にない案件が、議会で追加されることがある。はなはだしきは、原子力空母がねじ込まれたことすらある。我が国では、そんなスケールが大きいドンデン返しは起こらない。

日本も、アメリカと同じ仕組みじゃないかと思っていると、冒頭みたいな心配をすることになる。無理もないことではあるけれども、御安心を。仕組みがそもそも違う。


なんでこんなことになるかといえば、日本とアメリカで「予算」を策定・執行するための仕組みが違うから。過去に仕事で書いたこともあるけれど、日本でどれだけ「アメリカの仕組み」が知られているかどうかは分からない。

ましてや、アメリカで「日本の仕組み」が知られているかというと、それはよほどの日本通でもなければ難しいのではないかなあ。

ともあれ、予算教書がそのまま NDAA (National Defense Authorization Act) になるとは限らないアメリカでは、議会が強い力を持っているのだなと分かる。いくら大統領が「ああしたい、こうしたい」といっても、議会が納得して味方に付いてくれないと実現しない。

だから、いくらアメリカの大統領が「強い権力者」であっても、そんな好き放題できるとは限りませんよと、そういう話になる。逆に、議会も大統領の拒否権に直面することがあるから、(それをひっくり返す道があるにしても) 議会だけで好き放題できるかというと、それもまた違うような気がする。

馴染み深い分野の話だから、とりあえず NDAA がらみの話を引き合いに出したけれども、他の分野でも同様に、トップが交代しただけですべてガラッと変わるとは限らないところは、共通しているんじゃないかしらん。というのが本日のお題。

「とは限らない」と書いた。もちろん例外もあるということ。ただしそれが本当にトップが代わったせいなのか、それとも別の要因もあってのことなのかは、外から見ているだけでは分からないもの。だから、安直に「トップが交代したらこんなに変わってしまった」というのは問題があるかもしれない。

日本のやり方が正しいとか、アメリカのやり方が正しいとか、単純に二分するのは間違いの元だから、そういうことは書かない。この種の制度というやつは、それぞれの国の歴史や政治風土や思想の違いなどに根差している部分が大きいわけで、単純にどれが正しいとか間違ってるとかいえたもんじゃない。

それに、日本にいきなりアメリカ式を持ち込んだら、国会がとんでもないことになると思われる。日本の国会議員に同じことができるとは思えないし、低次元のぐちゃぐちゃな議論で空転するのがオチ。


なんでこんなことを書こうかと思ったかといえば、今日はアメリカ大統領選挙の投票日だから。(本来は月曜日更新なのに、お出かけをねじ込んだせいで 1 日遅れになってしまってすんません)

思い起こせば 24 年前、大統領選挙の後でアメリカに行ったら、テレビのニュースが明けても暮れても "The Florida recount" ばかりやっていた。今回、そんな騒動の繰り返しになるかどうかは知らない。ただ、どっちが勝つかで我が事のように一喜一憂している人がチョイチョイいるんだろうなあとは思っている。

ただ、「○○が勝ったらこの世の終わり」と思うのも、それを見たくないばかりに「対抗馬の△△が勝てば大成功」と思うのも、ベクトルが違うだけで論法は同じであるし。それに、「嫌いな○○の対抗馬」が必ず正義の味方だという保証がないのは、以前にも書いた通り。

どっちが勝つにしても冷静に構えて、どうしたら物事が極端に振れずに済むか、そう考える方がよくないかしらと。

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