Opinion : 出たとこ勝負と FLAGPLAN (2025/1/20)
|
とある本で、「ハルゼー提督が艦隊の指揮を執ると、夜中にいきなり作戦変更の指令が飛んできて、部下の指揮官は新しい指令の意味を理解しようとして苦労した」といった類の話を読んだことがある。
もちろん、それは敵軍の意表を突くことになるけれども、同時に、味方の意表も突くことになってしまう。指揮官の意図 (intention) や目的 (objective) を部下との間できちんと共有していれば、それでもなんとかなるかも知れないけれど、もしもそれが不十分だったら…
対照的に、スプルーアンス提督が艦隊の指揮を執ると、「実行前に内容について検討して、理解を周知する」「特に何もなければ計画通りに実行する」とも書かれていた。もちろん、ガチガチに計画に固執するわけではなくて、必要に応じて変更はかかるにしても、部下の指揮官が戸惑わされる度合は少なかったのかも知れない。
で。同じように「計画変更がかかる」でも、その本質は一種類ではないんじゃなかろか、というのが今回のお題。
ここ何年か、冬になると旭川界隈に撮影に行くのがお約束みたいになっている。宗谷ラッセルにも惹かれるものがあるけれども、個人的には 283 系の方が優先度が上。何度も通い詰めているから、主だった撮影地や補給拠点はみんな頭に入っていて、もはやカーナビ要らずといってもいいぐらい。
ただ、いつ、どこで、何を撮るかという話になると、出たとこ勝負の部分が多い。運行状況も天候も積雪状況も道路状況も一定ではないから、最初にガチガチにスケジュールを決めて、その通りに実行するなんていうのは、どだい無理な相談。
だから、ある程度、緩やかなアウトラインだけ決めておいて、後はその場の状況に合わせて決めていくやり方。格好つけた言い方をすれば FRAGPLAN (Fragmentation Plan)。つまり、細切れにした選択肢をいろいろ用意しておいて、最善と思われるものを選んで、つないでいくやり方。
純然たる「行き当たりばったり」「出たとこ勝負」と、「当初の計画から外さないガチガチ」の中間というべきか。その、細切れにした選択肢の範囲内では「出たとこ勝負」の要素が入るけれども、「何が出てくるか分からない」にはならない。と、そんなニュアンス。
ただ、この方式がちゃんと機能するかどうかは、どれだけ適正な「細切れにした選択肢」を用意しておけるかどうかにかかっている。だから、旭川界隈あるいは芽室界隈みたいに、勝手知ったる、もはや庭みたいになっているエリアでなら通用する手であるけれども、初めて行った場所ではそこまで柔軟にできない。と思う。
と考えると、初めて出向いた先で戦争するときに FRAGPLAN をきちんと揃えることの方が、何百倍・何千倍も難しい。兵要地誌を初めとする基本データをどれだけ揃えられるかが問題になるし、そもそも相手がいる話だから、状況がどう動くか分からないし。いやはや戦争の指揮というのは難しい。
将軍や提督はそのために俸給をもらっているんだろう、といわれれば、それはそう。
|
さすがに、海外に行くとあまり無茶はしたくないので、当初に決めた通りに実行する度合が高くなる。でも先日の渡英みたいに、当日にいきなり作戦変更してヨークからシルドンに展開なんてことも、たまには起こる。(そもそも自分の事前調査がザルだったのが悪い)
一方では、当初の作戦計画がマージンとりすぎで時間が余りまくる、なんてこともチョイチョイ起きる。でも、きわどいスケジュールがうまくいくと「悪い教訓」になってしまうので、これを改めるつもりはなくて。
戦争じゃなくても、マージンは足りないより過剰なぐらいの方がいい。時間が余ったときの FRAGPLAN を用意するぐらいのことは、してもいいかもしれないけれど。でも、それはそれで基礎データが揃っていないと難しい話ではあるし、ううむ。
|