Opinion : 我が愛しのあんぽんたん (2025/2/17)
 

お題を何にしようかと思案した結果、ヒマネタで行くことにした。その対象はあんぽんたん APT (Advanced Passenger Train)。

盛大にトラブルを出した挙句、やっとこぎ着けた営業運行はたちまち頓挫。そのままお蔵入りになってしまい、堅実に作られた Class 43 HST が主力になったのだから、傑作車か駄っ作車かと問われれば、まごうかたなき駄っ作車。でも、なんか引きつけられる魅力がある。それが APT。

こら、「英国面に染まってるだろう」とかいわない !


初めて APT の存在を知ったのは「鉄道ファン」の 1975 年 10 月号だったか。まだ APT-P ではなくガスタービンの APT-E の頃で、HST のプロトタイプと並んだ写真が載っていた。この両方とも、今はシルドンを終の棲家としている。

ただ、正直いって「うおおお格好いい !」となったのは、その次に登場した電気車の Class 370 APT-P の方。連接車で車体傾斜付き、上下をグッと絞り込んだ車体にスラントノーズの先頭車。いやはや、どこを見ても格好がいい。見てくれだけでなくメカ的にも面白い。だいたい、これを書いている本人は連接車大好き人間である。

ただ、車体傾斜に関して載ってる図は何を見ても同じ、台車の構造が詳しく分かる資料がありそうでない。分からないことだらけで数十年を悶々と過ごし (←長過ぎだろ)、とうとう一念発起して英国まで現車を見に行った。ありがたいことに車内外とも見放題、撮り放題。

そして台車の中にカメラを突っ込むようなことまでして (おい)、ようやくおおまかな概要は理解できた。でも、まだ、台車に付いている個々の部材の機能を完全に理解するところまでは行っていなくて、宿題はいろいろ積み残し。それでも、現車を見て初めて理解できたことはいろいろあったので、やはり現場現物である。で。

「高速新線を作るのは経済的に引き合わない」わかる。
「曲線区間が多いので車体傾斜が欲しい」わかる。
「客室がない電動車まで車体傾斜付きに」なぜそうなった。
「小径車輪で異様に軸距が長い連接台車」なぜそうなった。
「制動力を得るために流体ブレーキに」他にやりようはなかったのか。

駄っ作機の分野もそうだけれど、ときとして「やってる本人は真剣かつ大真面目なんだけれど、その結果として出てきたものが『なぜそうなった』になる」ことがある。APT-E や APT-P に惹かれる一因はその辺にあるのかも。

ちなみに、動力集中式で車体傾斜付きというとスウェーデンの X2000 改め X2 もあるけれど (これは 3 回乗っている)、普通のボギー車だし、機関車は編成の中間ではなくて端部に付いてるし、機関車に車体傾斜はない。いたって穏当な設計で、ちゃんと実用になった。外部塗装は以前の方が好きだけれども。

それと比較すると、APT-E といい APT-P といい、謎の (おい) 新規開発要素がてんこ盛りでは、リスクが増えるのは無理もない話。「在来線で実績がある技術を使う」とした東海道新幹線の対極にあるアプローチであるけれども、なんでそんなことになったのかは、まだ調べないと。

APT-E の車体傾斜メカがまた変態で、「なんでこうなった」感が満載なところに萌える。それと比較すると、APT-P の方がマトモ。


タイトルとは裏腹に、どう見ても褒めてないだろという話が続いてしまったけれど。でも、大コケ話も含めて「我が愛しのあんぽんたん」。初めて現物を見たときの感動は忘れない。それに「出来の悪い子ほどかわいい」っていうでしょ。

その「出来の悪い子」を解体処分なんてことにしないで、ちゃんと保存しているのだから、イギリスという国はえらい。おかげで後世に記録と資料を残せているし、クルーでもシルドンでもディテール写真を撮りまくれた。ありがたやありがたや。

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