Opinion : 本来の政治の仕事 (2025/3/31)
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ここのところ、ちょいちょい、石破首相の「C-17A が欲しいな」論を罵倒する声が、いろいろ眼に入ってくる (声なのに目に入るのか、というツッコミはなしで)。たいてい「現場は喜ばない」「C-2 でいいじゃないか」といったあたりがセット。
もともと「最近は FMS (Foreign Military Sales) 案件が増える一方で、国内メーカーに仕事が回らない」と不満をいう声がある昨今。そこに、国内に競合 (するように見える) 製品があるカテゴリーで「アメリカ製を買おう」なんていえば、理屈以前に感情の部分として反発を買うのは明白… とは思わなかったのかいなと。
そもそも論として、もう C-17A の生産ラインが閉鎖されてから久しい。それに、生産ラインがあったロングビーチ工場がない。生産ラインを新たに構築して再稼働させて、資材を先行調達して… とやっていたら、たちまち 4 年や 5 年はすっ飛ぶ。10 年でもどうか。
さらにいうならば、既存の機体と同一仕様のものを作れば済むのか、という問題もある。「どうせ再生産するなら能力向上を」「ディスコンになった、あるいはなりそうな機器やコンポーネントの新型化を」といい出す人はきっと出てくる。すると再設計や RD&E やサプライチェーン構築が仕切り直しになり、また余分に時間がかかる。
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それではトランプ大統領の任期内にケリがつかないから、「トランプ大統領のお手柄」にならない。そんなことすらも考えなかったのかしらと。現時点で生産ラインが稼働していて、迅速に手に入るモノを買うというならまだしも。
冷戦期だったら、そんな気の長い話をしていても許容できたかも知れない。でも、今の状況でそれが許容されるのかどうか。それは米大統領の任期中に眼に見える成果 (というか、お土産というか) を用意できるかどうかという問題よりも、東アジアの安全保障情勢に照らして悠長に構えてる余裕があるのか、という問題の方がずっと大きく、重い。
ここでも、よくある「手段の話にばかり目が行って溺れてしまう」問題があって。まずは、「今後、数年間のスパンでもっとも求められる物事は何か」「そのために達成しなければならないことは何か」を明確にした上で、そこから逆算しないと。
「中国の台湾侵攻阻止が最優先」ということなら、「どうすれば阻止できるのか」「そのために必要な能力・手法とは何か」「それは短期間で実現できるのか、それとも時間がかかるのか」の話が先。その上で「時間がかかってでも、やらなければならないこと」と「今すぐにやらなければならないこと」を明確にする、と。
そういう文脈の上で「ショートスパンの目標達成とアメリカ製品の販促を両立させるために○○を輸入します」と。そういう話のもって行き方をするのであれば、まだしも納得がいったものを。
それをいきなり「お買い物」の話を持ち出すから「は ?」となってしまう。
もっとも我が国、長いこと「防衛力整備とはお買い物である」みたいな風潮が続いてきたから、その延長線上で考えてしまったのかも知れないけれども。時間をかけて染みついたマインド セットは、そう簡単には変えられない。
ついでにいうならば、「飛行機を買います」では単発の話で終わってしまう。実際にはその後の運用・維持管理にかかる費用もあるけれど、そういうのは世間の耳目を集めない (= 政治家のお手柄になりにくい)。もっとも、そういう話になると、運用・維持管理にかかる費用のことをあまり取り上げない、メディアの側にも責任はあろう。
前からいってることだけれども、政治サイドで真っ先にやらないといけないことは「国家として護るべき利益線の明確化」を初めとする「国家としての目標・指針」の部分。それが明確になれば、制服組は「実現の可否」や「実現のために何が必要か」を考えることができる。何を調達・配備するかを論じるのは、その後の話。
それを、いきなり思いついたかのように見える形で、おそらくは AoA (Analysis of Alternatives) もやっていない中で「○○を買ったら」みたいなことを政治サイドからいいだしたら、そりゃあ荒れるに決まっている。
さらに、そこで過去の言動を掘り返されて「個人的趣味でいってるだろ」なんて思われた日には最悪 (本当に個人的趣味でいってるかどうかに関係なく)。
「何を達成しなければならないか」を最初に明確にしておいて、それをブレずに貫徹していれば、AAMDS (Aegis Ashore Missile Defense System) の件だって、今みたいに訳の分からないことにならずに済んだと思っている。目的よりも手段にばかり注目してるから、後でフラフラする。
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