Opinion : いわゆるアファーマティブ アクションのこと (2025/5/12)
 

「航空大学校で 2027 年から、筆記試験を免除する女子枠を設定する、というニュースが流れてきた。思わず「★★★じゃないの !!」と口走ってしまった。いかんいかん、そこで熱くなってはいけない。

この手の「女子枠」の話は、たとえば大学入試なんかでもチョイチョイ出てくると記憶している。そしてやり方次第では、「それは逆差別になりかねないのでは」という話になる。


もちろん、性別だけを理由として「門前払い」するのは、基本的には良い話ではない。機会は誰にでも平等に与えられてしかるべき。なにも飛行機の操縦に限らず、どんな分野でも同じこと。

ただ、その先のお仕事・任務の内容がとてもハードだったり、危険だったりする場合に、なにかしらの保護があるべき、という論にも理はある。以前に戦闘職種を対象から外していたとか、戦闘職種の中でも特殊作戦部隊を外していたとかいう類の話がそれ。

そういう話とは別に、「間口だけでなく、アウトプットも平等に」という話もある。性差を理由にして門前払いをするのは駄目だけど、同時に、性差を理由にして能力水準に差をつけるのも駄目、という話。平たくいえば、「女性だからといって甘く採点するべからず」ということ。

飛行機の操縦というお仕事では、能力的に問題がある人をエリミネートできずに現場に出してしまうと、人命が失われたり国の護りが危うくなったりといった事態に直結してしまう。他の業界でも、たとえば鉄道やバスの運転士だって、人命を背負ってるのは同じこと。

過去に米軍で、女性パイロットが出てきた過程で「訓練課程での採点が甘いんじゃないか」という批判の声があったという。本当にそうだったかどうかはともかく、先駆者がそういう批判に晒されると、結局は後に続く後輩が苦労をすることになる。

第一、「間口も採点も甘くしたおかげで、訓練課程を卒業して現場に出られた」なんていう見方をされることになったら、当の本人が「たまったものじゃない」。それも、真面目に努力した人ほどに。そうなったら誰も幸せにならない。

冒頭で言及した航大の件は、まだ「これから募集します」段階の話だから、実際に教育・訓練の過程が始まった後でどういうことになるかは分からない。というか、そこで扱いを違えるようなことがあってはならないし、航大の関係者もそれは承知しているはず。

「より多くの人に、航空の世界を目指して欲しい」という願いは理解できる。けれども、そこで舵取りを間違えると、企図が失速したり墜落したりすることになりはしないかと、そこが心配で。結果を急いで長期的なマイナスにつながってしまえば、何もいいことがない。


「企業の経営者における女性の比率が云々」の話だって同じこと。意欲と能力がある人がしかるべきポストに就くのを邪魔するな、というのが本筋であって、性別を主な理由にして取り立てることがあれば、それは本筋からの逸脱でしかない。

面白いことに、アメリカの防衛関連大手のトップには女性経営者が何人もいる。他の業界と比べても、ひときわ「オトコの世界」という眼で見られそうな業界ではある。しかも、政治との関わりも避けられない難しい仕事。そんな業界のトップに上ってくる人がいるのだから、大したものだと思う。

もっとも、アメリカでも、あるいはその他の国でも、今みたいな状況に至るまでには、「いろいろあった」のだろうと思うけれども。

なんてことを書いていたら。そのアメリカで、国防長官が「軍の士官学校における入試プロセスで、アファーマティブ アクションを止めるよう指示した」との報が。これ、もしかしたら、現政権下で多発している「利息を付けた意趣返し」のひとつではあるまいか。

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