Opinion : 残って、立て直したいと思える組織かどうか (2025/5/19)
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学生の頃、日産の座間工場が一般公開イベントを実施したことがあり、見に行ったことがある。時期からすると 6 代目のサニー (B12 型) を製造していたタイミングで、確かにそんなだった記憶。
その座間工場は、もうだいぶ前に閉鎖になってしまった。まだ、公開イベントでもらったパンフレットは手元にあるけれど。
そして先日。その日産が、今度は追浜工場や湘南工場を閉鎖する、とのニュースが流れてきた。その通りになると、神奈川県内の生産拠点はなくなってしまうことになるらしい。なんともはや。さらに人減らしの話も出てきている。
稼働率の悪い工場を閉鎖するとか、人を減らすとかいう手を打てば、さしあたりの財務上の数字は良くなるだろうけれど。ただ、製造業としては根本的に「売れるクルマ、採算がとれるクルマを将来に渡って生み出す仕組み」作りが不可欠で、そこのところはどうするんだろうかと。それが気になるところ。
それは、「直近にこんなモデルを投入します」とは別次元の話。実のところ、クルマ屋に限らず他の業界でも「商品を生み出す仕組みや理念」が大事なのは同じで、物書き業も同じこと。他人事じゃない。
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組織が苦境に陥ったり、人員削減を余儀なくされたときには、当然ながら、その組織を離れる人が出てくる。(言い方は悪いけど) 追い出される場面もあれば、自ら見切りをつけて去って行く場面もある。
これはなにも企業が経営難に陥った場合だけの話ではなくて。といったところで持ち出すのが、「トム・クランシー 熱砂の進軍」。
この本の本題は湾岸戦争における第 VII 軍団のオペレーションにあるのだけど、本当に読み応えがある部分は別にあると思っていて。数年前にも書いたことがあったようだけど、大事なことなので繰り返させて欲しい。
それが、「ベトナム戦争で疲弊したアメリカ陸軍の立て直し」に関するくだり。
実のところ、この本を読んでいて、自分の中でいちばん響いたのは、「ベトナム戦争で深傷を負ったひとつの組織とひとりの軍人が、いかにして立ち直って 1991 年に砂漠の勝利者になったか」という部分だった。
普通なら、組織が深傷を負ってガタガタになったら、前途に見切りをつけて去っていく人が多くなっても無理はないし、それを引き留めるのは難しい。そうなると、そのまま立ち直ることなく組織が崩壊することもあり得る。ところがアメリカ陸軍では、あえて現役に残り、立て直しに尽力した人が何人もいた。
折から、ソ聯軍は数的な面でも質的な面でも、どんどん強大になっている (ように見えた)。そうした中で、いかにして立ち向かおうとしたか。単に「高性能の新装備を配備する」だけではなくて、むしろ組織や訓練の改革、そして「戦い方改革」(いま命名した) の部分が大事だったと思う。
1970 年代後半から 1980 年代初頭にかけての NATO が置かれていた状況と、今の日本が置かれている状況には、結構な類似点があるんじゃないかと思っていて。すると、「深傷を負った米陸軍の立て直し・戦い方改革」に尽力した人達のことを学ぶことには、なにがしかの意味があるんじゃないのと。
ただ、そこで「自分は残って立て直しに尽力しよう」と思えるのは、立て直しの努力がモノになる見込みがある、と思わされる何かがあった場合であろうし。という話は以前にも書いたことがあった。
これは今でも同じことを思っているし、そこはトップが果たさなければならないこと。イケイケドンドンの場面よりも、組織が苦境に直面しているときこそ、トップの識見であるとか、人を引っ張る能力とかいったものが問われてしまう。
そこでイントロの話に戻すと。
社長以下の経営陣は、これからの日産自動車をどんな会社にしたいんだろう。お客様に対してどんな価値を提供する会社にしたいんだろう。それを実現するために、どんな「戦い方改革」をするつもりなんだろう。
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