Opinion : アフガン各派に「大人の対応」を求める (2001/12/3)
 

世間は「御出産」で大騒ぎだが、こんなときこそ、「対テロ戦争」について考えてみたい。当分、日本の新聞・テレビ・週刊誌はアフガン情勢そっちのけで「御出産」報道が続くだろうから。

既報のように、アフガニスタンの主要都市は次々にタリバンの手を離れている。開戦前には某国会議員のような「米軍は苦戦する」という論調が幅を利かせていた。ところが、蓋を開けてみたら、少なくとも「点と線」を押さえるという点についていえば、タリバンは瓦解しかかっているように見える。

当初に私が予想したように、米軍は大規模な地上軍の投入を行っていない。カンダハルに海兵隊が FOB (Forward Operation Base) を設営するために乗り込んでいるが、規模としてはせいぜい 1 個大隊というところだから、これをもって「大規模な地上戦」というのは無理がある。この規模から見ても、大規模に攻め出そうというつもりはなさそうだ。

そもそも、アフガニスタンの地勢を考えれば、湾岸戦争における第 VII 軍団のような大規模な戦車戦は、やりたくてもやれない。そのことは私も以前に書いたし、ペンタゴンの当事者とてちゃんと理解しているハズだ。
そのような、簡単に分かるファクターを無視して「ベトナムで苦戦したから今度もきっと」「ソ聯が負けたから今度もきっと」という、予想三割、願望七割の論調を出したこと自体に、根本的な破綻があったといえる。


マスコミその他の無責任予想をあげつらうのはこれくらいにして、ここで今一度、今次作戦の目的を復習しておこう。

アメリカにとって、今回のアフガン攻撃 (Operation Enduring Freedom) の直接の目的は、厳密にはタリバンそのものではないだろう。たまたまタリバンがラディンというテロリストの庇護者であり、そのタリバンがアフガニスタンを実効支配していたため、アフガニスタンが「テロリストのサンクチュアリ」になってしまった。
そうした事態を防ぎ、テロリストをいぶりだすためにはタリバン政権を追放する必要がある、というのが、今回の攻撃に至った理由のハズだ。

だから、米軍が自ら、地上軍を大々的に投入するはずがない。アメリカが大規模介入しても (ベトナムのように) 事態を混乱させるだけだし、タリバン崩壊後の政権フレームワークの構築が難しくなる。ワシントンは、ベトナムにおける自国の、そしてアフガニスタンにおけるソ聯の失敗を、ちゃんと分析していたと考えるのが妥当だ。

それなら、アフガニスタン国内の反タリバン勢力を物資面で援助したり、あるいはアメリカお得意の爆撃で戦術的に支援したりする方が理に適っているし、アメリカの兵士が生命を危険にさらすことも少なくなる。冷たい言い方だが、事実だ。

だから、もしラディンを匿っているのがタリバンではなくて北部同盟だったら、同じ要領で北部同盟がターゲットになっていたのではないか。要は、特定の派閥ではなくて「テロリストの庇護者」を叩き潰すのが目的なのだ。

多分、今の調子で戦局が進展すれば、タリバンはカンボジアにおけるポルポト派と同様、「地方に引っ込んで、嫌がらせのゲリラ攻撃を仕掛ける反体制グループ」という位置付けになるのではないかと思う。
だから、これを機会に磐石な体制を持つ新政権がアフガニスタンを掌握すれば、事態は一挙に (アフガニスタンにとっては) 沈静化する可能性があるのだが、これはこれで、そう簡単にいかないだろう。理由はこうだ。

過去の中東の近代史を見ていると、「国家」程度の規模で意見がまとまった事例があまりない。どんな和平案でも新政権のフレームワークでも、すべての人を満足させる内容になるはずがなく、どこかしらに妥協が生じる。すると、往々にしてそこから離脱して、横丁で勝手なことを始めるグループが出てくる。
そういうことにならないのは、国王がしっかり全体を統制している場合ぐらいのものだが、それとて、王族がいくつかの派閥に割れていたりするというぐらいのことは日常的に起こる。(サウジアラビアがいい例だ)

もっとも、これは中東のお家芸ともいい切れなくて、日本の永田町も似たようなものかもしれない。社会党から社民党、民主党左派、新社会党と枝分かれしたのが典型だ。

おっと、閑話休題。
すぐに「横丁で勝手なことを始めるグループ」が出てくる典型例がパレスチナで、パレスチナ人が PLO の旗の下で一枚岩にまとまっているかというと、とてもそうは見えない。ヒズボラあたりを筆頭に、妥協を嫌い、「武闘派」と化して花火を上げて、結果として収集をつかなくしてしまう勢力が必ずいる。

どうしてそうなってしまうのかというと、もともと中東の民族は「部族」のような小さな単位が行動の基本になっていて、大勢力が集まって意見を調整し合い、全体をまとめていくという思考パターンが存在しないためではないかと私は考えている。偏見といわれるかもしれないが…

アフガニスタンも、民族的にはいくつかの民族が混在しているから、同じことが起こる可能性が高いのではないか。特に、数では少数派に属する民族が政権の主軸に納まったりすると、ルワンダのようなゴタゴタにつながりかねない。

そうなると、最悪の場合はアフガニスタンが収拾のつかない無政府状態になり果てて、それに乗じてラディンやアルカイダがアフガニスタンに居座ってしまう可能性だってある。それは、テロリストをアフガニスタンからいぶりだしたいアメリカにとっても、最悪のシナリオといえる。


では、今後のアフガン情勢がどう推移すればいいかというと、やはり「安定した新政権」の樹立と、テロリスト追い出しの実現ということになる。
反タリバン勢力各派が、タリバン寄り (といわれがちな) パシュトゥン人も取り込む形で「全員参加」の新政権を作り、自分の意見だけをごり押しせずに政権運営に協力するという「理のある大人の態度」を見せてくれれば、結果として国内情勢が安定する可能性が高まるし、テロリストがいるという理由で攻撃されるようなこともなくなる。

第三者が大局的に見れば、その方が結果として全員に利益をもたらすと思うのだが、自分達の利益にばかりこだわる「分からず屋」が出てくれば、すべては元の木阿弥だ。(だから、パレスチナ情勢はいつになってもカタがつかない)
きついいい方だが、そんな「分からず屋」がハバをきかせるようなら、アフガニスタンという国家は地図の上から消滅し、ユーゴスラビアのように分裂しても仕方ないと思う。(民族ごとに地域が明確に分かれていれば、「連邦制」というのもひとつの解ではあるが)

アフガニスタンの各勢力においては、「妥協」という言葉を覚えて欲しいものだと切に思う。それが、今後のアフガニスタン情勢を安定させる鍵だと思うからだ。
いくら国連や周辺諸国があれこれ世話を焼いても、最終的に安定を作り出すのは当事者にしかできない仕事なのだ。そこのところを自覚していただきたいものだ。


ところで。
テロ事件の後、NY 株式市場が再開してから、私はロッキード・マーティン、ボーイング、レイセオン、ゼネラル・ダイナミクス、ノースロップ・グラマンの株価推移を追い続けている。その様子をグラフ化したのが、次の図だ。

面白いもので、戦争だからといって「兵器株」が上げているかというと、全然そんなことはない。攻撃開始直後だけは上げているが、その後は小幅の上げ下げの繰り返しが続いている。

つまり、アメリカの投資家は「対テロ戦争によって兵器メーカーが潤う」とは考えていないということだ。もっとも、株価が下げていないというだけでもマシ、ということかもしれないが。
(なお、実際にこれらのメーカーが潤うかどうかは別の問題で、株価に現れるのは、あくまで「投資家がどう見ているか」という指標である点に留意されたい)

対テロ戦争というのは、私が以前に「これは 10 年戦争だ !」で書いたように、細く、長く続く戦いになるハズだ。だから、花火のように「どかーん」と兵器メーカーが儲かることはないだろう。そういう意味で、アメリカの投資家の "読み" は、いい線を突いていると思う。
この株価ウォッチは、もうしばらく続けるつもりだ。

Contents
HOME
Works
Diary
PC Diary
Defence News
Opinion
Ski
About


| 記事一覧に戻る |