Opinion : 鉄道高速化にまつわる二題 (2001/12/24)
 

先日、JR 東海が新幹線の料金を「のぞみ料金に統一する」という報道が出て、その少し後に、社長が打ち消すという騒ぎがあった。その一方で、例の「成田空港高速鉄道」の詳細が明らかになってきた。

今週は、この小ネタ二件について取り上げたい。


まず、新幹線の特急料金の件だ。
報道によると、以下のような趣旨であったと記憶する。

  • 東海道新幹線の車両は、近いうちに 270km/h 走行可能な 300 系と 700 系に統一される
  • そのため、車種統一後は全列車が 270km/h 運転になるので、特急料金を 270km/h 運転の <のぞみ> 水準に統一する
  • つまり、事実上の値上げである

少なくとも、東海道新幹線区間においては、<のぞみ> と <ひかり> <こだま> の間には、50km/h という最高速度の格差と、それに伴う所要時間差が厳然として存在している。だから、現時点で <のぞみ> に割高な特急料金を課すことは、それなりに理に適っている。現に、高い料金を支払ってでも「時間を買う」という人は多い。

全列車が 270km/h 運転になるということは、その分だけ差が縮まるということに他ならない… ように見える。そう考えると、全列車の料金を高速水準の「のぞみ料金」に統一するのは、一見、理に適っているように見える。しかし、実際はどうだろう ?

少なくとも、<ひかり> の停車駅が増えて、実質的に <ひだま> 化していることを考えると、所要時間差はそれほど縮まらないだろう。そうなると、利用者としては、<のぞみ> と同じ料金を支払うのは抵抗があるのではないだろうか。
もっとも、その <のぞみ> からして、停車駅の漸増傾向がある。新横浜と新神戸の停車本数が近年になって急増しているが、これが他の駅に波及しないという保証はない。

点と点を結ぶ飛行機に対して、面的広がりで勝負するという戦略は正しいと思うから、このこと自体は否定しない。ただ、結果として、<のぞみ> が <ひかり> が歩んだのと同じ道を進んでいるようにも見受けられる。
そうなると、さらに <のぞみ> の上を行く速達列車の構想が出てきたりしないだろうか。東海道新幹線は最高速度をこれ以上上げられないから、速達化は停車駅削減によるしかないのだ。そうなったときに、JR 東海は、さらに割増料金を課するつもりなんだろうか。

実情としては、<ひかり> の速度向上と <のぞみ> の停車駅増加により、両者は同じ水準に上下から歩み寄りつつあるように思える。となれば、料金水準も、現在の <ひかり> と <のぞみ> の中間に揃えるというのが、現実的な落としどころではないかと思う。少なくとも、高止まりさせたら顰蹙を買うのは間違いない。

ただ、問題は <こだま> だろう。いくら最高速度を上げても、各駅停車では効果は知れている。複雑化を承知でいえば、<こだま> には一律割引料金を設定してもいいのではないか。

それができなければ、もっと運賃を弾力化させられないものだろうか。新幹線に限ったことではないが、現在の繁忙期と閑散期の運賃差は少なすぎる。
空席を走らせていても一銭の得にもならないのだから、閑散期の運賃を思い切って引き下げて、需要の平準化を図ってみてはどうだろう。特に、相対的に需要の少ない <ひかり> や <こだま> を対象にするのは、悪いアイデアではないと思う。

あと、企業向けの回数券方式を使った割引だけでなく、もう少し、個人でも使いやすい割引商品が増えてくれると、もっと嬉しい。企業の方がまとまった需要が見込めるから、ついついそっちに目が向いてしまうのかもしれないが、個人需要を馬鹿にすると、個人需要に泣くことにならないだろうか。JR 東海は、もっと個人旅客を大事にして欲しいものだ。


次に、例の怪企画・成田空港高速鉄道について。

しばらく前の「産経新聞」によると、予想通り、京成高砂以西のアプローチは京成本線、あるいは都営浅草線と京成押上線を使うらしい。これで、スピードの面では公約倒れが約束されたようなものだ。

その詳細な理由については、すでに拙稿「『成田新高速鉄道』の怪」で取り上げているので、そちらを参照していただきたい。とにかく、京成高砂以遠の区間でどんなにふっ飛ばしても、成田空港まで 30 分で行けるとは思えないのだ。

私の試算では、現行の京成上野-成田空港の走行距離と比べると、新ルートは 5km 程度の短縮と見られる。押上ルートならもう少し短くなりそうだが、地下鉄直通路線に、一人だけ高速で走る特急が割り込んで、好き勝手に走れるハズがない。そんなことをしたらダイヤがガタガタになってしまう。

JR の <成田エクスプレス> とて、本格的に飛ばせるのは千葉から先で、都心側ではそんなにスピードが出ていない点に留意されたい。線形と線路容量に恵まれた JR でもそうなのだ。

それで、いったいどこをどう叩けば「東京-成田空港 30 分」なんていう数字が出るのか、理解に苦しむ。新ルートの列車は、京成が第二種事業者になって走らせるそうだが、今の <スカイライナー> と同じ車両で、そんなスピードが出せるのだろうか。極めて疑問である。

冷静に考えてみよう。新ルートの総距離は 60km 前後と考えられる。この数字は概算だが、そんなに誤差はないハズだ。そこを 30 分で走るとすると、表定速度は 120km/h だ。現在、新幹線以外でこんなスピードを出している列車は存在しない。

在来線最速を誇る、JR 北海道の <スーパー北斗> とて、108.6km/h である。線形の良い区間を高出力と振子にモノをいわせて、コンスタントに 100km/h 以上で爆走してこの数字だ。
千歳線や室蘭本線ほど線形がいいとは思えない「新ルート」で、どこをどうすれば、これより 10% 以上も速い表定速度がマークできるのだろうか。

しかも、首都圏近辺の通勤路線で、末端区間では足の遅い通勤電車の合間を縫って走るのだ。おまけに、線形が良くて列車密度が低い区間は、せいぜい全体の 6 割程度。これだけ悪い条件が揃っていて、どうやって 120km/h なんていう非現実的な表定速度をマークしようというのだろうか。

多分、「30 分」という数字は言葉の遊びで、「30 分台 (これだって実現不可能に近い数字だ)」か、さもなくば火星時間の「30 分」なのだろう。よく考えたら、誰も「地球時間の 30 分」だとはいっていない。

「新線建設」という景気のいい話に浮かれて、鉄道趣味界や鉄道業界ではこの辺の矛盾を指摘する声があまり聞かれないようだ。しかし、現実問題として当事者、特に国土交通省と京成電鉄は、一体どう考えているのだろう。一度、見解を聞きたいものである。

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