Opinion : ウラネタ大好き ! (2003/5/26)
 

「表があれば、裏がある」というのは、テレビ朝日のドラマ「ザ・ハングマン II」の冒頭で使われていた台詞だが、なにも「裏社会 vs 表社会」なんていう物騒な図式に話を持っていかなくても、どんな世界にもいえる話。

一応、念を押しておくと、ここでいう「ウラネタ」というのは、スキャンダルだの何だのというドロドロした話ではなくて、もっと軽妙なノリで楽しめるレベルの話。イエロー・ジャーナリズム的な暴露話は対象外なので、誤解のなきよう。

たとえば、F1 がらみの記事や写真なんかを見ていると、レース本番で走っているドライバーの話ももちろん興味深いが、走っていないときにドライバーやチームの表情を映した写真が面白い。案外と、一人一人の個性は、そんなときに現れるものかもしれないと思うし、普段はスーパーマンみたいに思われている F1 ドライバーのおふざけ映像なんか見ると、なんとなくホッとする。

F1 に限らず、個人でも企業でも国家でも、似たようなことがいえるかもしれない。マイクロソフトだって、最近はずいぶんと "普通の会社" になったと思うが、まだ会社が小さくて知名度が低かった時分には、ずいぶんと型破りなエピソードがいろいろあったものだ。日本でもそうだから、アメリカの本社に行けば、もっと凄まじい話がいろいろあるに違いない。
そんな話が表に出るのと出ないのとでは、受ける印象が意外と変わって来ると思う。

それに、普段からガリガリと統制して厳しく締め上げている会社や組織よりも、「普段は羽目を外していてもいいから、本番ではちゃんと結果を出せ !」という方が、厳しい反面、むしろ強い組織になるのではないかと思う。精神主義が強くて、一糸乱れずピシッと動くのが大好きな日本やドイツが、第二次世界大戦でアメリカを見くびった一因も、平素の (一見) だらけて見える部分ばかりに目が行っていた点にあろう。だが、戦争に限らず、普段は馬鹿やっている人の方が、意外と「ここ一番」の勝負に強かったりしないだろうか。


前に「食う寝るところに住むところ」なんていう記事を書いたことがあるが、イラクで戦争になったときにも、戦局そのものもさることながら、最前線の兵士がどんな暮らしをしているのか、ちゃんと寝ているのか、メシや風呂はどうしているのか、何か気晴らしのネタはあるのか、そんな話が気になって仕方がなかった。

戦略も戦術も兵器の性能も大事だけれども、そういう、本来の「いくさ」の話とは関係ないところで、意外と士気に影響が出るのではないかと思うし、その観点から見ても、イラクに勝ち目はなかったと思う。なにしろ、大量の物資を持ち込んで、世界のどこにでも「リトル・アメリカ」を作ってしまう連中が相手なのだから。(もっとも、それだからアメリカは嫌われるのだ、という説にも一理ある)

戦闘機や爆撃機のパイロットでも、特殊部隊のベテラン兵士でも、結局は一人の人間な訳で、メシも食うし、冗談もいうだろうし、ときには羽目を外してバカ騒ぎもするはず。イラク戦争のときに朝日新聞かどこかで、MRE 戦闘糧食の中身の当たり外れで一喜一憂する海兵隊員の話が出てきたが、そんな話を聞くと「彼等もやっぱりフツーの人間だなあ」と思う。

実際、アンディ・マクナブの「SAS 戦闘員」なんかを読んでみると、厳しい任務の合間に上官相手にイタズラを仕掛けている話が出てきて、これが面白い。なにしろ、暖房器具の中に魚を突っ込んで部屋中を魚臭くしてしまったり、上官のシェービング・スティックの中に海老を埋め込んだりするのだから、なにをかいわんや。これが、真黒なアサルト・スーツと短機関銃で武装してテロリスト相手に強行突入するのと同じ連中かと思うと、笑える。


以前にどこかで、「国と国との相互融和には、一般の国民同士が接することができて、一緒に飯を食ったり酒を飲んだり馬鹿騒ぎをしたりするのが一番」という趣旨のことを書いた記憶がある。それは、表面的な話や評判だけではなくて、先に書いたような「ウラネタ」に属する一面を互いに見せ合うことができるからで、北朝鮮みたいに閉鎖的な社会では、それができないから相互融和が進まない。悪循環だ。

実際、自分がマイクロソフトに勤めていたときには、アメリカやアジア各地のスタッフが日本に出張してくると、(もちろん仕事の話がメインであるにしても) ウラネタ系のプロセスもあった。それはたとえば、仕事が終わった後で宴会をして、趣味の話や個人的な話をいろいろするとか、ちゃんこ鍋屋のメニューを四苦八苦して英語で説明するとか (誰だよ、選りに選ってちゃんこ鍋屋をウェルカム・パーティーの場所に選んだのは !)、夜中まで笹塚のバーでへべれけになって飲むとか…
そんな話が飾りのないレベルでの相互理解を深めて、間接的には仕事の面でもプラスになっていたと思う。多分、他所の会社でも同じだろう。

国が相手の場合でも、政治のレベルで、あるいは新聞や TV のニュースのレベルで、伝聞として「○○国の印象」が伝えられるのと、実際に「○○国の人」と会って話をするのとでは、えてして印象が違うもの。たとえば、アメリカの悪口をいう人が少なくないが、その人達の何パーセントが、実際にアメリカの人と会って話をした印象として悪口をいっているのか、問い質してみたい気がしなくもない。
何事も、「建前」の伝聞情報だけでなく、「ウラネタ」まで生の姿で見聞することこそが、本当の理解につながる最善の手段ではなかろうか。

実は、このサイトで本業とあまり関係のない私的なコンテンツがいろいろ存在するのも、自分の「ウラネタ」の片鱗を明らかにしようという意図があってのことだし、マイクロソフトの Web にこんなコンテンツがあるのも、実は似たような狙いがあるのかもしれない。

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