Opinion : 少子化対策に見る政官界の傲慢 (2003/6/9)
 

1 年ほど前に、「少子化問題を考える」という記事を載せたが、その中で、「子供を産む数が減っているのは、子供を産み育てることを躊躇させてしまうような社会状況があるからだ」と書いた。この考えは、今でも変わっていない。

といっても、単に「教育費がかかる」という問題だけではない。もちろん、子供を育てるのにカネがかかるのは事実だし、共産党あたりがそこを突いて「教育費の無料化」なんていうウケ狙い公約をいい出す可能性は低くなさそうだが、単に経済的問題でもあるまい。
それに、教育費の無料化をやったところで、「お受験」に熱心になればなるほど、塾通いその他でカネがかかって仕方がないのだから、学校の費用だけタダにしたところで、その効果はタカが知れている。

とどのつまり、教育をめぐる問題は社会全体の構造問題でもあるのだから、その中のひとつの事象だけを取り上げて「対策を講じました」といっても、効果があろうハズがない。


根本的には、「いい学校からいい会社 (あるいは中央官庁などの公務員)」という価値観から親の世代が脱却しない限り、「いい学校」を目指して親が子供の尻を叩き続ける構図は変わらない。それだけでも「学校より塾に依存する」という構図を形成するには十分なのに、文部科学省が「ゆとり教育」などと称して学校で教える内容を削り続けているから、ますますこの傾向に拍車がかかる。学校で教える内容を減らせばゆとりができるという考えが、そもそも錯誤の塊だ。

もっとも、「いい学校から中央官庁へ」という、世間一般が成功者と認識しているコースを忠実にトレースしてきた人たちが立案する政策が、そのコースを否定するような内容になるハズがない。本来、学校現場がゆとりを失っているのは、その「いい学校主義」に起因している部分が多いと思うのだが、そっちは手付かずだ。それでゆとりも何もあったものではない。

そうやって教育現場が息苦しくなるから、(そのことだけが原因ではないにしても) 自分の子供を通わせたいと思う学校が少なくなり、特に公立学校離れの傾向に拍車がかかって、これも「お受験」への流れを加速する要因になる。

こういう、構造的な状況の中では、一人の子供を育てるだけでも大仕事で、それを何人も続けろというのは、経済的な面以前に精神的負担が大き過ぎる。案外と、子供を産み育てることを躊躇させている原因には、そんなこともありはしないか。


にもかかわらず、政官界が考える「少子化対策」ときたら、カネをばら撒く「公共事業型バラマキ政策」に終始している。それだけでも論外なのに、とうとう「子どもを生み育てる者が真に誇りと喜びを感じることのできる社会」なんていうキャッチフレーズまで持ち出したのには、空いた口がふさがらない。

だいたい、子供というのは「授かり物」だ。することをしたからといって、必ずできるものとは限らないし、なかには医学的な要因から不妊に悩んでいる人もいる。(その一方で、望んでいないのにできてしまうケースもあるのだが)

そういう、ストックオプションや宝くじのように「当たり外れ」のある要素を相手にして、まるで個人の意思だけですべてをコントロールできるかのような思い違いをしているからこそ、先のような間抜けなキャッチフレーズを考える輩が出てくる。
つまり、身も蓋もない言い方をすれば、「子供がいないことは恥ずかしいことだ」という社会的ムードを醸成し、独身者や DINKS にプレッシャーをかけようということではないか。まったく、お節介極まりない話だ。

それに、「少子化が進めば社会保障や労働力の確保に支障が生じる」というが、それが厳然たる事実であるにしても、政官界の言い分だけ聞いていると、若年層人口が、生身の人間というよりも、まるで将棋の駒みたいに扱われているように思える。生命の誕生が「授かり物」である以上、思ったように運ばないことがあるのは当然で、そこまで考慮して多少のリスクヘッジ策を取り入れようという発想は、出て来ないものなのだろうか。

また、どうして子供を産む数が減ってしまったのか、と過去の政策や社会動向を謙虚に洗い直してみるということができないのだろうか。この件に限らず、過去の政策が間違っていたのであれば、それを正すのが最善の責任の取り方なのであって、責任者を吊るし上げたり首を飛ばしたりしても、何も解決などしない。まして、責任を回避したり、小手先の細工を弄したりしたところで、ますます解決は遠ざかるだけだ。


そもそも、国が何か政策を掲げて煽れば、国民はみんなそれに唯々諾々と従って子作りに励むのだと政官界が本気で考えているのだとしたら、ずいぶんと国民を馬鹿にした話だ。これではまるで、人間の子供は養殖ハマチか何かみたいではないか。(ハマチ業者の皆さん、失礼。他に適当な例を思いつかなかったもので…)
「おまえらは黙って、俺たちのいうことを聞け」といわんばかりの態度をとるのは、なにも国税庁に限った話ではないようだ。

そのうち、傲慢なる政官界の思い上がりはさらに加速し、「独身者には税金を余分にかける」とか、「国民が配偶者を必要とする年代になったら、国がそれを支給する」といって政府や地方自治体の肝煎りで「集団結婚式」をやり、強制的にカップルを捏造するとか、男女雇用機会均等法を廃止して女性の社会進出を抑制するとか、民法を書き換えて離婚を禁止する (または離婚を難しくする条件を追加する) なんていう類の、まことにセコい細工を考え出しそうに思えてならない。困ったものである。

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