Opinion : そんなに空母が欲しいの ? (2003/9/8)
 

海上自衛隊の新型ヘリコプター護衛艦が全通甲板型になるということで、多分、「ハリアーを載せろ」とか「JSF を載せろ」と盛り上がっている人が多いんじゃないかと思う。だが、たかだか基準排水量で 13,500t 程度の艦に載せられる航空機の数など知れているし、その中のかなりの部分がヘリで占められるのだから、戦闘機を載せるとしても、どれだけ実用的な数になるか疑問ではないかと思う。

そもそも、空母より先に、厳しい予算状況の中で高い優先度を与えるべき課題はいろいろあるのではなかろうか。


最近、某マンガを引き合いに出すまでもなく、「大国指向」というか「大日本帝国への回帰指向」というか、要は「日本は偉大な国なんだ」と思いたがる安直なナショナリズムがはびこっているように思えて、なんか不安だ。航空母艦が「大国の象徴」と思われていることを考えると、「空母欲しがり症候群」も、そうした大国指向の一環ではないかと指摘したくなる。

確かに、歴史をひも解いてみると、最初から空母として建造された艦として世界初なのは日本海軍の「鳳翔」だし、空母の集中運用で威力を見せ付けたのも日本海軍だ。このことは素直に評価していい。ただ、空母の艦載機や搭乗員に「少数精鋭」を求めすぎて、戦闘を経験すれば消耗するという当たり前の定理を忘れていた日本海軍の航空行政は、もっと非難されてしかるべきではないかと思う。空母そのものの脆弱性についてもしかり。
おっと、話が脱線した。そういう過去の歴史的経緯があるから、余計、「空母欲しがり症候群」を加速しているのは確かだろう。

ただ、軍備が国を護るための道具である以上、想定される脅威に適応した軍備を持たなければ、ただの国家予算の無駄遣いになってしまう。極端なことをいえば、「アフガニスタン海軍」とか「カザフスタン海軍」なんてものが出現したら、とんだ無駄遣いといえる。海洋の自由航行を確保する必然性がない国に、海軍は要らない。

では、現在の日本において想定される脅威とは何だろう。
冷戦期だったら、南方のシーレーンがソ聯軍の潜水艦や爆撃機に脅かされる、というシナリオが考えられたが、これは今では考えなくていい。中国の外洋海軍指向は不気味だけれど、これは日本が独力で対処する問題というより、アメリカや他のアジア諸国と共同で関わるべき問題だから、措いておこう。

やはり、さしあたっての脅威は北朝鮮といえる。それも、大規模な上陸艦隊が日本海沿岸に押しかけてくるとかいうのではなく、「不審船」や「拉致」のような不正規戦寄りのシナリオ、あるいは弾道ミサイルによるテロ攻撃だろう。その種の脅威に対処するのに必要なのは、空母よりも先に、イージス艦の MD 対応であり、ミサイル艇や武装ヘリによるシーコントロールではないだろうか。

無理やり理屈をこじつければ、空自の戦闘機では到達できない北朝鮮国内のミサイル基地に攻撃を仕掛けるのには空母艦載機が要る、といえなくもないが、そこで艦載機の機数に関する問題が出てくる。
以前、「"ミニ空母" で四苦八苦してみて感じたこと」で書いたけれども、仮に艦載機が 10 機あったとしても、その全機が常に出動できるわけではなくて、恒常的に出動させられるのはせいぜい 1/3。ほんの数機のハリアーや JSF で、いったい何ができるのか、ということになる。しかも、その一方で支援インフラの整備や訓練シラバスの開発など、カネと人手はむやみに食われるのだ。

それに、制空や縦深対地攻撃なら固定翼機でないと務まらないけれども、不審船対処や浅海面 ASW には、ハリアーや JSF は何の役にも立たない。むしろ、武装ヘリの方が使える。それも、攻撃ヘリではなく、人員の輸送が可能なヘリが。攻撃ヘリと違って、人員を載せられる汎用ヘリをベースにした武装ヘリなら、特殊作戦部隊を投入する役にも立つ。こんな芸当はアパッチやコブラ、コマンチにはできない。(Mi-24 ハインドなら可能だが、それは考えないことにする)

よくしたもので、海自が導入計画を進めている SH-60K は、従来のような ASW 一本槍ではなくなり、対水上戦をかなり意識した内容になるらしい。それを大型化する新型 DDH に、3 機といわず、もっとたくさん載せればシーコントロール任務に有用なのであって、見栄アイテムにしかならないハリアーや JSF より、よほど役に立つ。

それに、もうひとつの課題である MD 能力獲得にしても、すでにイージス艦という駒はあるわけだから、これを改修することでそれなりに対処できる。SM-3 が実用化した暁には、ある程度遠方まで進出してブースト段階かミッドコース段階の要撃も可能になるかもしれないし、こちらの方が空母なんぞより優先度が高い。

ただ、軍艦は長いこと使われるものだから、将来、今とは異なる脅威に対処しなければならない可能性がある。その場合の将来余裕として艦の大きさを使うべきではなかろうか。大日本帝国海軍へのノスタルジア、そして、その帝国海軍の空母戦力が戦争で壊滅してしまったことに対するルサンチマンとしての空母欲しがり症候群は、ロクに国防の役に立たない結果しか生み出さないと思える。


空母に用がないといえば、中国も同じこと。だいたい、古来より中国はランドパワー国であって、シーパワー国ではない。
もし、本気で中国が台湾を武力制圧したいと思っているのなら、空母より先に両用戦艦艇を大増強する必要がある。だいたい、過去の戦史をひも解いてみても、自国から海を押し渡って別の国に大部隊を上陸させ、しかも、ちゃんと制圧できた国は数少ない。それを支えるには膨大な船舶と両用戦艦艇、そして両用戦のノウハウが要る。アメリカが太平洋戦争末期にフィリピンや沖縄に乗り込んできた際、どれだけの艦艇と上陸部隊を揃えていたかを調べてみれば、すぐに分かる話だ。

正直、今の中国が台湾に対してできる "武力制圧" は弾道ミサイルをガンガン撃ち込む程度で、本格的な上陸作戦すらできるかどうか怪しい。それに、中国本土から台湾は近いのだから、陸上基地から足の長い戦闘機を飛ばす方が、よほど経済的に制空権を確保できる見通しが立つ。
そう考えると、根強く噂される中国の空母欲しがり症候群は、「空母に用はない」といいつつも「空母は手放さない」といっているロシア海軍と同様、大国としての象徴が欲しいという意味合いが強いのではなかろうか。

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