Opinion : やっぱり Simple is Best!? (2004/5/31)
 

ようやく、マスコミ各社は馬鹿げた「未納探し」に飽きたらしい。無論、国民年金の保険料を払わないというのは怪しからんことだけれども、払っていないのが分かったのなら、今からでも可能な限り徴収する。時効が短すぎるというなら法律を改正して、過去 20 年ぐらい遡って徴収できるようにする。それでケリをつけるのが妥当な落としどころだろうに、と思う。
洒落にならないのは、政治家の未納をあげつらっていたニュースキャスターも未納だった、というところだが、それはそれとして。

前に、「税制の『超』単純化を !」という記事を書いたことがあったが、複雑怪奇なる様相を呈している点では、税制も年金制度もいい勝負。実際、自分も会社を辞めてフリーになったことで厚生年金から国民年金に切り替えたクチだが、自分であれこれと調べて回るのは、正直、面倒だった。会社員だろうがフリーランサーだろうが公務員だろうが議員だろうが、単一の年金制度の下で一本化されていれば、もっと話は単純なのに、と思う。

日本の現行税制が複雑怪奇になってしまったのは、根本的なコンセプトの変更を避けて、部分的な手直しや通達による取り繕い、それとゴチャゴチャした控除制度の付け足しを重ねてきたことによるところが大きい。いわば「増築に増築を重ねた古い温泉旅館」「リフトを次々架け足した、歴史のあるスキー場」みたいなものだが、年金制度にも似たところがある。

そもそも、税制にしても年金にしても、当事者が本来の問題点に正面から向き合おうとせず、責任逃れの問題先送りばかりをやっているのが問題なのではなかろうか。誰かが泥をかぶって抜本的な手直しをするべき時期に来ていると思う。それをやってこそ、議員や官僚の存在価値があるハズなのだが。


もっとも、この国では昔から、シンプルで分かりやすい構造よりも、複雑精緻な職人芸を好む傾向がある。個人的にしばしば槍玉に挙げている「誉発動機」が典型例だけれども、他の業界にも似たような事例は多い。もちろん、ソニーのウォークマンに代表されるような「小型化製品」のように、必要があって精緻なメカニズムを取り入れるのなら何も問題はないのだが、精緻であること自体を目的にしてしまっているのだとしたら、それはいかがなものか。結果が同じなら、メカニズムはシンプルな方がよい。

形のないものでも、似たような事例はある。たとえば、昭和の日本陸海軍が陥った悪癖のひとつに、わざわざ複雑精緻な作戦を立案したがった、というものがある。
典型例がミッドウェイ攻略の MI 作戦で、すべてが前提条件通りに機能しないと成り立たないような、あまりにも柔軟性のない作戦計画を立ててしまった。前提条件が成り立たなかったらどうするか、こちらの予想通りに米海軍が動かなかったらどうするか、といったことを、いったいどれだけ考えていたのか疑問だ。だがこれも、元をたどれば、複雑精緻を好む国民性の反映なのかもしれない。

多分、現代日本の行政機構にも、似たような DNA が引き継がれているのではなかろうか。たとえば税制についていえば、単純で誰でも分かりやすいものにするよりも、複雑精緻な制度の方が格好いいという意識と、"問題先送りのスピリット" が組み合わされて、訳が分からない状況を生んでしまった、といったら言い過ぎだろうか。

讀賣の社説にあったが、社会保険庁と国税庁を一本化して、税金と保険料の徴収を一本化するのはよいアイデアだと思う。国民にとっても、窓口がワンストップ化されることになるから利益がある。ただ、これを実現しようとすると、年金という金蔓をなくしてしまう厚生労働省は激しく抵抗するだろう。やれやれ。


そういう意味で興味深いと思ったのが、米海軍の LCS (Littoral Combat Ship) 設計開発フェーズ選定結果だった。Raytheon 社が提案していた SCS (Surface Effect Ship, 水面効果船) が落とされて、滑走型モノハルを提案していた Lockheed Martin 社とトリマランを提案していた General Dynamics Bath Iron Works 社が勝ち残った。
いかにもリスクが少なそうな案ばかりが残った感じで、よほどのことがなければ、最後は Lockheed Martin 案で決まり、ということになりそうな気がする。なにしろ、最近の大物コンペティションを見ると、YF-22A vs YF-23A (ATF)、X-35 vs X-32 (JSF) と、リスクが少なそうな案が勝ち残っている。今度の LCS も、やたらと計画を急いでいるだけに、安全策をとって同じ傾向になるのではないか ?

ただ、YF-16 vs YF-17 (LWF) や DD(X) のように革新的な案が勝つこともあるから、新兵器のコンペティションでは必ず堅実案が勝つ、という訳でもない点には注意する必要がある。LCS についていえば、Raytheon が提案していた SES はカーディナル級機雷掃討艇で失敗こいた前科がある。それが米海軍のトラウマになっていて、同じ轍は踏みたくなかったのかも ?
もちろん、どんどん新しいことにチャレンジしなければ進歩が止まってしまう点を忘れてはいけない。要は、不必要に複雑精緻を追求すること、あるいは複雑精緻であること自体を目的にしてしまうのはプラスにならない、ということが分かっていればよいわけだ。

こんな堅実指向も、ペンタゴンが兵器の本質を正しくわきまえていて、不必要な複雑精緻を避けようとしているからではないかと思う。現実問題として、堅実指向で採用を決めたハズの YF-22 (F/A-22) ですらトラブル続発で大騒動なのだから、さらに革新的な選択をしていたらどうなったことか。

ついつい複雑精緻なのがいいことだと思ってしまい、それで失敗すると「うちの方が技術的には優れていたのに云々」と泣き言をいうことが多い我々日本人にとっては、こういうペンタゴン流の考え方は、何かの参考になるのではなかろうか。兵器でもなんでも、実際に使って役立てるのが本来の目的。複雑精緻なものを作って自慢するのは、ただの自己満足にしかならない。

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