Opinion : 災害対策と UAV の活用 (2004/10/25)
|
まずは、今回の中越地震で被害に遭われた皆さんにお見舞い申し上げるとともに、できるだけ早い復興を実現して欲しいものだと思う。じゃあ、自分に一体何ができるのか、と考えると忸怩たるものがあるが、何か役に立てることがあればと思っている。
幸い、スキー場の多いエリアでもあるので、日常生活ができる程度の状況に戻ったら、みんなで遊びに行って現地におカネを落とすのも、ひとつの復興支援じゃないか、と都合よく考えてみたりもしている。
今回、びっくりさせられたのは、210km/h で走行中の新幹線が直下から地震を食らったにもかかわらず、脱線だけで済んだ上に、死傷者も出なかったということだ。もちろん、地震を検知して送電を停止するシステムはあるにしても、足元で地震が発生したのでは効力は限られる。それでもあれだけの被害で済んだのは、(多少は幸運もあったにせよ) 先人たちの努力の賜物というしかない。
それを、JR 東日本の記者会見で「安全神話の崩壊だと思うか」などと、大馬鹿な質問をした記者がいるというのだから呆れてしまう。その「安全神話」なるものはマスコミが勝手に捏造した架空の存在であり、実際に存在するのは、現場の不断の努力にほかならないのだから。(参考 :「神話などというなかれ (2002/8/19)」)
自分は脱線の専門家ではないから詳しいことは分からないけれども、60t もある車輌を持ち上げて線路から外すには、ものすごいエネルギーが要るのだろう、という程度の想像はつく。高速で走っている列車が、そのものすごいエネルギーに直面したのに脱線だけで済み、連結器すら外れていないというのは凄いことだ。被害に遭った 200 系が、最近の新型車両と比べて重いということを考慮に入れるにしてもだ。
多分、阪神淡路大震災で「倒れた高速道路」がシンボリックな画として扱われているように、今回の中越地震では、「脱線した新幹線」がシンボリックに扱われることになるのではないかと想像している。
ただ、200 系はボディマウント構造で、車体構造が下まで回り込んだ造りになっている。線路から外れて傾斜してしまい、車体に軌道スラブが食い込んでいるようにも見えるし、脱線時に無理な力がかかっているだろうから、車体構造そのものが歪んでいる可能性が高いと思う。だから、少なくとも脱線して傾いた車輌については、廃車は避けられないのではないか。幸い、未更新の 200 系が少し残っているから、使える素材があるうちに使うことになるのだろうか。
|
もっとも、今回の地震で起きた被害は新幹線の件に限られているわけではなく、あちこちで被害が発生しているという報道に接している。ただ、マスコミ報道が集中するのは "画になる" 被害が発生した場所ということになりやすいから、マスコミが報道していない場所で、意外と大きな被害が起きている可能性が考えられる。
たとえば地震だったら、「崩壊した道路」「潰れた家」「地割れや大穴」といった映像があれば取材が殺到するし、話題になった場所はさらに取材を呼び込んで、そこがもっとも被害を受けた場所であるかのように扱われる。しかし、ビジュアルにならない被害があっても、そういう場所にはマスコミ (特に TV) は寄りつかないから、話が伝わりにくい傾向は否めない。今回のように山間部で発生した災害では、特にそうした傾向が強いのではないか。
そこで重要なのは、一刻も早く状況の全体像を把握するということなのだが、その作業を担当するべき地元の役所の担当者に TV のニュース番組が電話して話を延々と聞くというのは、率直にいって業務妨害にほかならない。「知る権利が云々」「伝える義務が云々」という建前論はあるにしろ、まずは地元の人を救うことが第一で、それに比べれば、被害状況の報道なんていうのは後回しでよろしい。
閑話休題。
その全体像の把握も、今回の被災地である山間部のような場所では、あまり簡単にはいかない。特に地震や水害では、現場にアプローチするための道路が壊されてしまうことがよくあるからだ。そこで考えたのが UAV の利用だ。
先日の国際航空宇宙展に、ヤマハ発動機が無人ヘリ「RMAX」を出展していた。これは全重量 80kg 台の小型ヘリで、TV カメラか赤外線センサーのターレットを機首下面に搭載して飛行できる。地上管制ステーションもコンパクトなもので、ヘリに対して向きやカメラ操作の指令を出し、リアルタイムで映像情報を受け取ることができる。
飛行経路は事前にプリセットしておき、RMAX が内蔵する GPS レシーバーで自己位置を把握しながら飛ぶようになっていて、地上管制ステーションからの通信が途絶すると、GPS で測位しながら自動的に引き返すことができるそうだ。地上管制ステーションとの通信可能距離は 5km ほどとの由で、有珠山噴火における状況偵察、あるいはイラクの自衛隊の宿営地周辺警備に利用された実績がある。
こういう小型 UAV を、山間部を中心に、自治体、あるいは消防か警察あたりにワンセットずつ配備しておけば、上空からの状況把握がやりやすいのではないか。RMAX はシステム一式でも至ってコンパクトであり、2t トラック、あるいはちょっとボディの長いバンが 1 台あれば運ぶことができそうだ。だから、現場の近くまでクルマでシステム一式を運び込んで、そこから機体を発進させて上空から偵察すればよい。歩いて偵察に行くより、よほど効果的だ。
今回の中越地震でもそうだが、山間部の村落なんかがアクセス道路の途絶で行き来不能になれば、地上からアプローチするのは難しい。水害についてもしかり。
そうなったら、状況を把握するには上空から偵察するしかないし、そうしたときにこの手の小型 UAV は使いやすい。それに、もしまずいことになって機体が墜落しても、無人機なら搭乗員の損失が出ないから、多少危険な偵察行動にも思い切って投入できる。人命と違って、機体はまた納税者に買ってもらえばよいのだから。
ただ、RMAX では地上管制ステーションとの通信可能距離が短いから、偵察できる範囲は限られる。そこで、地域ごとに配備しておいて、車載化して移動するという発想が出てくる。これが、長距離通信を可能にするために衛星通信を利用して云々なんていいだすと、RQ-1 プレデターみたいに外見の割に値段の高い機体ができてしまい、おいそれと使えなくなる。お気楽に投入できるのが UAV の利点だから、「安い」ことも大事だ。
軍事の世界では、さまざまな分野で UAV による偵察が活用され始めている。もっと安上がりなシステムとしては気球を使う方法もあるし、イスラエルでは砲弾にカメラを仕込んだものを撃ち込む、なんていう偵察手段も開発されている。この手の技術、軍用に限らず、今回のような状況にも役に立つはずだ。マクロな状況把握なら空自に RF-4E を飛ばしてもらうしかないかもしれないが、市町村の役場レベルで状況を把握するには、もっと小回りのきく手段が要る。そんなときに、この手の簡便な UAV は役に立つと思う。
前にもどこかで書いたことがあるような気がするが、テロ対策だけが "Homeland Security" ではない。人災・天災を問わず、災害対策だって同じこと。軍事技術と民生技術の垣根が低くなってきていることでもあり、使えるテクノロジーはどんどん使えばいいと思うのだが、どうだろう ?
関連記事 :
あなたの震災対策は大丈夫 ? (2003/9/1)
|