Opinion : インターネットを買い被ってない ? (2004/11/8)
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例のプロ野球新規参入騒動は、下馬評どおり、楽天イーグルスの参入決定という結論になった。じゃあ、うまくチームが回っていくのかどうかというと、正直「お手並み拝見」というところだが、この楽天にしろ、落ちたライブドアにしろ、試合のネット中継という話を売りにしていたのがひっかかる。
もちろん、"IT 企業" としては、既存のメディアと違う何かを打ち出さないと新味がないし、特にライブドアは「No more TV !」なんて宣伝までぶちかました手前、テレビ以外の中継手段を持ち出さないと、話の整合性がとれなくなってしまう。テレビをけなしている会社が、自分とこの野球チームを中継するのにテレビに頼ったのではムチャクチャだ。
しかし、「インターネットを使ったストリーミング中継」なんてものは何年も前から話題になっている。そして、あちこちで「ライブカメラ」だの「イベントのストリーミング配信」だのと煽っている。しかし、その割には普及していないような気がするのだが、気のせいだろうか。
たとえば、ADSL や FTTH の普及にかこつけて、「ブロードバンドにはリッチコンテンツを」ということで、動画や音楽などの配信を打ち出したプロバイダなどが数多くあったが、それが大当たりしたかというと、さにあらず。
どうしてそんなことになるかといえば話は簡単で、現行のストリーミング配信の品質が、地上波テレビや衛星テレビに追いつけないからだ。いかに高速な通信が可能になったといっても、それは個々のユーザー宅とインターネットを結ぶ区間の話。多数のユーザーが同時のストリーミング配信を利用すれば、今度は途中のバックボーンや配信元のサーバがボトルネックになるし、それを解消するには相当な設備投資がかかる。
たとえば、320×240 ピクセル、ビットレート 56kbps の MPEG-4 ビデオが手元にあるが、これは 1 分間で 5MB 程のファイルになっている。1 時間で 300MB だ。ユーザーが一人で占有する分には大したことないデータ量だけれども、同時に多数のユーザーがやり取りするには、なかなか無視できないサイズになる。
しかも、320×240 ピクセルというサイズ、いかんせん小さすぎる。テレビでスポーツ中継を見るなら、20 インチ台や 30 インチ台の画面を持つ液晶テレビはたくさんあるし、もっと巨大な画面を持つものもある。かといって、それと比肩できるだけの画面サイズを持つデータをストリーミング配信しようとしたら、とてつもないデータ量になってしまう。
しかも、楽天もライブドアも、ユーザー宅まで直接届くブロードバンドのインフラを持っていない。単純にインターネットを介してストリーミング配信すれば、バックボーンが混雑したせいでデータが途中で途切れてしまうというのはよくある話だが、これを野球中継でやったらどうなるか。
「さあ、宮城球場における楽天 - ○○戦、試合は 9 回の裏、イーグルスの攻撃。
スコアボードは 6-3 で 3 点差を追うイーグルス。2 アウト満塁、6 人目のバッター○○は 2-3 のフルカウントまで追い込まれた。ホームランが出れば逆転サヨナラという緊迫の場面で、ピッチャー△△、6 球目を投げた !」
というクライマックスで、バックボーンが渋滞したせいで中継が「ブチッ」と途切れたら、誰だって嫌になる。テレビやラジオなら、放送事故か電波妨害でもなければちゃんと見られる (or 聞き取れる) 試合の内容も、ネット配信では途中で切れてしまう可能性が相対的に高くなる。ここで挙げた例はちょっと極端な話だけれども、ストリーミング配信にはつきものの話でもある。
(だから、VOD やストリーミングが意外と普及しないんじゃないの ? ダウンロードなら事情は違ってくるけれども、今度は著作権管理の問題が出てくるし…)
こういう状況があるからこそ、CDN (Contents Delivery Network) なんて話も出てくるわけで、配信用サーバをユーザー宅にできるだけ近いところに置くのは基本中の基本。それでも完全な解決ができるかというと疑わしい。ところが、ブロードバンドのインフラを持っていない両社にとっては、それすら自前ではできない相談で、プロバイダなどの手を借りる必要がある。そうなると、楽天はまだしも、自らがプロバイダでもあるライブドアにとっては、ライバルの手を借りる事態になりかねない。
だから、安定した配信という観点からすると、Yahoo! BB というインフラを自前で持っているソフトバンクは、まだしも有利になる。一時、球界参入で名前が出た USEN にしてもしかり。
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つまり、「サイズ」と「安定した通信品質」の両面から見て、テレビの代用品となり得るほど強力な訴求力が「試合のネット中継」にあるとは考えにくいと思うのだが、どうだろうか。まして、それが有料だったら、どれだけの人が利用するだろう ?
むしろ、チームや選手とファンの間のコミュニケーション ツールとしてインターネットを使うのが筋ではないか。もちろん、こうした用法は直接的な球団の収入にはつながりにくいけれども、ファンサービスとしての機能は無視できないし、それこそ既存メディアでは実現しづらい、差別化につながりそうな機能になる。
個人的には、「ブロードバンド化で帯域が広がったのだから、リッチ コンテンツを」という発想には以前から疑問を持っている。むしろ、訴求すべきは「定額・常時接続」という点であって、常につながっているからこそ、通信費を気にせず、気軽にネットを利用できる、ということの方が重要になるのではないか。ぶっちゃけた話、ブロードバンド化における最強のキラー アプリケーションは、Windows Update かもしれない (爆)
(関連記事 : 「『スペック指向』もほどほどに」)
この「無理のありそうなネット配信」に限らず、インターネット界ではしばしば、何か新しい技術やサービスが出てくると「これをビジネスに活用するには云々」という話が出てくるのがお約束で、最近だと blog がターゲットになっているようだ。もちろん、何事もビジネスとして役立たないと決め付けるのは早計だけれども、「インターネットでビジネスする」という話になると、先ほど示した野球中継の話みたいに、強引にビジネスに結び付けようとする話が目につくように思える。
企業レベルではなく個人レベルの話でも、blog と並んでホットな話題として、アフィリエイトを使った小遣い稼ぎというのがある。もちろん、アフィリエイトのリンクを設置したら、それを経由して売上が成立して仲介者も儲かった、という事例はあるにしても、それはあくまで、多くのユーザーのアクセスを集めているサイトが先にあり、そこに集まる人の趣向に合った商品のリンクがあったからではないのか。
それが最近だと、「アフィリエイトで小遣い稼ぎ」という話がポピュラーになりすぎた。おかげで、至るところに iPod mini のアフィリエイト リンクが設置されていて、食傷気味だったりする。そんなことに血道を上げる暇があったら、まず魅力的なコンテンツを揃えて、かつ定期的な更新を欠かさないようにして、固定客を掴む努力をするべきだろといいたい。それがあってこそ、初めてアフィリエイトが効果を発揮する下地ができるので、そこのところを勘違いしている人が多すぎる。
挙句、記事のど真ん中に Google AdSense の広告やアフィリエイトのリンクを貼り付けて露骨に目立たせて、暗に「クリックしろしろ」と迫る (?) サイトまであり、そんな画面を見るとぶん殴りたくなる。(殴ると液晶が壊れるから殴らないけど)
とどのつまり、企業レベルでも個人レベルでも、インターネットで商売する、という行為に対する買い被りというか、勘違いというか、そういう話が多過ぎないだろうか。
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