Opinion : ETC マイレージサービスのダマカシ (2005/10/17)
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1 年少し前、「数字の魔術」という記事を書いた。これは、数字そのものは正しいものの、それを提示する際にチョイチョイと細工 (絶対指標と相対指標を使い分ける等) することで、受け手に対する印象操作が可能になる、という話をメインにしていた。
数字を提示する際の細工によって印象操作を図る方法は、他にもいろいろ考えられる。たとえば、成田新高速鉄道の所要時間。
確か、最初の構想段階では「都心から成田まで 30 分」とかいう話が出ていたように記憶しているが、いつの間にか「都心から成田まで 30 分台」にトーンダウン。「台」と付くと、最大値と最小値の間に 9 分間の開きが生じるが、元の数字が小さいだけに影響は大きい。30 分と 39 分では 3 割増の差があるのだから。
さらに、「都心」と称するものが実は日暮里駅のことだった、という詐欺みたいな話がある。一般的な社会通念では、日暮里のことを「都心」とはいわないだろう。
まるで、「これまでの募金活動とはちょっと違います」と称しているが、実は募金でも何でもないホワイトバンドと同じこと。言葉の使い方ひとつで印象操作をやっているという一例になる。ただ、数字をいじっているわけではないので、ここではこれ以上の追求はしないけれど。
それはそれとして。
以前に取り上げた「数字の細工」とは違うけれど、ユーザーに不利益をもたらさないと思わせておいて、実はそうでもないという話を書いてみたい。お題は、ETC マイレージサービス。
もともと、ETC 導入促進のための施策として導入された ETC 前払割引という制度がある。これは、なにがしかの金額を前払すると、支払額に応じたプレミアムを上乗せする制度で、たとえば \50,000- を前払すると、\58,000- 分使える。この数字は、ハイウェイカードの \50,000- 券と等しい。
だから、ETC 車載器自体やそれの導入経費、あるいは ETC カードの年会費といった負担を別にすれば、前払割引を利用することでハイウェイカードと同等の割引を受けることができた。ところが、この制度が終了することになり、2005/12/20 限りで前払ができなくなる。
そこで代わりとして使われることになったのが、ETC マイレージサービス。前払割引と違い、利用額に応じたポイント還元を行う制度になっている。
この ETC マイレージサービス、基本的には「50 円で 1 ポイントの還元」ということになっていて、以下の表のように、ポイントがある程度たまると利用料金に転換できるようになっている。
ポイントの交換単位 | 還元額 (無料通行分) |
100 ポイント | 200 円 |
200 ポイント | 500 円 |
600 ポイント | 2,500 円 |
1,000 ポイント | 8,000 円 |
自動還元を設定した場合、1,000 ポイントたまった時点で、自動的に 8,000 円分の利用料金に転換される。いちいち手作業で還元作業をしなくても良い仕掛けを用意した点については、評価できるだろう。還元を忘れて貴重なポイントを捨ててしまったら、洒落にならない。
気になるのは、「50 円 = 1 ポイント」(高速自動車国道の場合)、あるいは「100 円 = 1 ポイント」(一般有料道路の場合) という仕組み。
この記事を書くために道路地図に添付されている料金表を確認したところ、いわゆる高速自動車国道では、正規料金は 50 円刻みになっている。それについていえば何も問題はなく、\50,000- 分だけ利用すれば 1,000 ポイントとなり、\8,000- 分の還元を受けられる。
しかし、高速自動車国道に分類されない一般有料道路では、10 円単位の料金に関するポイントは切り捨て御免となる。
高速自動車国道にしても、実際にはさまざまな割引制度があるし、これからも拡充される可能性がある。深夜割引、通勤割引、早朝夜間割引については、割引額を算定する時点で 50 円単位に丸めることになっているから問題なさそうだ。しかし、割引後の料金が 50 円単位にならない場合が出てくれば、その都度、微妙なロスが出る。
もっと深刻なのは、ETC マイレージサービスの対象が道路運営会社ごとに分かれていること。東日本・中日本・西日本の 3 社はポイントを合算してくれるが、首都高速にはマイレージサービスがない。阪神高速と本四架橋については会社が別で、マイレージサービスも別枠になっている。
しかも、Web サイトを見ると、ポイントから還元された分は、元のポイントを得た会社の利用料金にしか充当できないようだ。つまり、東日本・中日本・西日本で得たポイントを還元しても、首都高速や阪神高速、本四架橋の通行には利用できないということなのだろう。
従来の前払割引であれば、前払を行った時点で確実に、たとえば \50,000- なら \8,000- の上乗せを得られる。そして、それはどこの ETC 対応道路でも利用できる。ところが、ETC マイレージサービスでは実際に走らないとポイントが付かない。しかも、継続的に利用しないとポイントの還元につながらない。
おまけに、ポイントの有効期限は最大 2 年間だから、利用頻度が低い道路では、せっかく得たポイントを捨ててしまう可能性がある。有効期限は 4 月から始まる「年度」を単位にして区切るので、タイミング次第では 1 年ちょっとということもあり得る。ウカウカしていると、あっという間にポイントが消えてしまう。
また、首都高速や阪神高速とその他の高速自動車国道をつないで走行した場合には、首都高速の利用分にはポイントが付かないし、阪神高速の利用分についてもポイントは別立てて勘定される。つまり、ポイントが散ってしまうことになる。ましてや、本四架橋の場合は額がでかいだけに、その影響も大きい。
これが前払割引なら、「ポイントが散ってしまう問題」とか「利用頻度が低い道路で損する問題」とかいったものは発生しない。たとえ 1 回こっきりの利用でも恩恵を得られる。
もちろん、マイレージサービス本来の趣旨からすれば、利用頻度が高い人を優遇するというやりかた自体は筋が通っているけれども、問題は、それを前払割引の代用品にしてしまった点にある。
マイレージサービスが前払割引の代用になっていないという一例として、首都高速だけを利用している人の例を示そう。ここでは正規料金で計算するが、割引料金でも差が生じることに違いはない。
前払割引の場合 : 支払額 \50,000-、利用可能回数 82 回 (58,000÷700 = 82.85 で端数を除く)
マイレージの場合 : 支払額 \50,000-、利用可能回数 71 回 (50,000÷700 = 71.42 で端数を除く)
阪神高速についてはマイレージサービスがあるが、これとて日常的に利用しないとポイント還元につながらない。月額利用高が \10,000- を超えないとマイレージサービスの対象にならず、さらに 500 ポイント貯めないと還元も受けられない。よほど頻繁に利用していない限り、さしたる恩恵はなさそうだ。
金額に差異はあるが、首都高速で 2005 年 10 月からスタートした「お得意様割引」も、事情は同様。
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つまり、ETC 前払割引サービスを ETC マイレージサービスに切り替えても損がないのは、東日本・中日本・西日本会社が運営する高速自動車国道だけを頻繁に利用している場合に限られる、と考えてよさそうだ。その他の会社に足を突っ込むと、その分だけロスが出る。また、程度の差はあれど、利用頻度が低いとポイントを捨ててしまうケースが出てくる。その場合、実質的な値上げといってよい。
こんなことを書くと「ETC には、いろいろ割引制度があるんだから文句いうな」と反論されそうだが、そうした割引制度はいずれも前払割引と併用できた。ここで問題にしているのは、前払割引の代用品としてマイレージサービスを使ったときにネガが生じるケースがある、という話なので意味が違う。
ポイント還元の仕組みについてパッと見た範囲では、「\50,000- の利用で \8,000- の還元なら、従来と同じだよね」ということで納得してしまいそうになるが、実はいろいろと落とし穴がある。このことに気付いている人が、どれだけいるのだろうか。これも一種の「数字を使った印象操作」というか、むしろダマカシではないかという気がしてきた。ETC の普及に成功したが故の、体のいい便乗値上げだ。
なるほど、ウソはついていない。しかし、本当の話は奥の方に隠されている。どこかで聞いたような手口だと思ったら、なんだかホワイトバンドと似ている。ETC もホワイトバンドみたいに、Web サイトの内容をコッソリと書き換えるようになるんだろうか。
とりあえず、期限が来る前に前払割引を積み逃げしておくつもり。こんなことを書くと、ハイウェイカードでやったように、またぞろ「前払分は○○以降は使えません」とやらかしそうではあるけれど。歴史は繰り返す。
参考リンク :
ETC マイレージサービス サービス概要
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