Opinion : 続・自己責任ということ (2006/3/13)
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強制捜査がきっかけで発生したライブドア株の下落に対して、「被害者の会」が発足したというニュースがあった。「ライブドアが決算の内容を粉飾して、実態よりいい数字に見せかけた。だから株価が上がって高値掴みをしてしまった。その後で粉飾が発覚したから株価が暴落して損失を蒙った」という論法であるらしい。
正直、「それは違うだろう」と思った。
一見したところ、「被害者の会」が主張している内容は筋が通った理屈に見える。しかし、そもそもライブドア株を買った人の多くは「何かやってくれそうだ」という漠然とした期待感、あるいは新聞や TV、雑誌を通じて伝えられた「堀江元社長の戦闘的な言動」に惹かれて株を買ったのではなかったのか。
本来の「投資」としての株式購入であれば、当該企業の財務内容や業務実績などを調べた上で、購入に踏み切るかどうか判断するのが筋。それであれば、財務内容を偽ったから高値掴みしたという主張にも理はある。しかし、ライブドアについて多少なりとも知っている人であれば、胡散臭さを感じて近寄らない方が正常な判断というもので、うわべの華やかなイメージにひっかかった時点でアウトではないか。
だいたい、派手な言動に対して「株価上昇目的の売名行為ではないか」という指摘は、バファローズ買収に名乗りを上げたときからなされていた。IT 業界の人間なら、それ以前から似たようなことを繰り返していたのは周知の事実。そして、IT 企業という分類とは裏腹に、金融事業で大半の利益を稼ぎ出していたのも周知の事実。経理面での怪しさについても、1 年も前から指摘する声が上がっていた。
かようにいろいろと状況証拠が出ていたのに、それを無視してライブドア株を買った、あるいは株をホールドし続けた時点で、購入者自身の判断ミスは否めない。それをライブドアの不正経理に責任転嫁したり、東証に脅迫電話をかけたり、地検に八つ当たりしたりするのはいかがなものか。不正経理をやったライブドアにも責任はあるにしろ、それで株式購入者が *全面的に* 免責されるとは思えない。
なんというかこれって、「大本営発表で勝ち戦が報じられていたから軍に志願したのに、実はボロボロの負け戦で敵に圧倒されて戦死してしまった」といって、遺族が国を訴えているみたいに見える。
2 年ほど前に、例の「イラク三○△騒動」があったときに「自己責任ということ (2004/4/19)」という記事を書いた。あのときには、なんだかいろいろな話を書いて分かりにくくなってしまったけれども、要するに私がいいたかったのは、こういうこと。
自分が行った行為の結果として発生した出来事に対して、自分で収拾できる範囲のことは自分で責を負うべき。自分で結果に責任を持てないようなことをするな。
といっても、個人の力ではどうにもならないこともあるから、それに限っては社会や組織が共同で負担するしかない。
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「株式投資は自己責任」といわれる。上記の考え方を敷衍すれば、自分がつぎ込んだ資金以上の損失を蒙ることはないのだから、自分の資金力に見合った範囲で投資を行う。そして、株式購入時の判断とその結果については、自分でちゃんと引き受ける。という意味になるだろうか。それができなくなるほどのカネをつぎ込んではいけない。株式市場は凄絶な戦場なのだから。
ライブドア株に退職金をつぎ込んだとかいう話を聞くと、どうしてそんな判断ミスをしたのかと訊いてみたくなる。退職金をつぎ込むなら、株価が安定して配当を継続的に出すような株にするのが筋だろうに。「安心して買える株」って、そういうもののことをいうのでは ?
少しは「計算されたリスクの原則」ということを考えてみなかったのだろうか。もともと、株の世界に「ローリスク・ハイリターン」はないだろうに。
「ライブドア被害者の会」にいい印象を持てないのは、ライブドアの胡散臭さを見抜くことができなかった判断ミスを棚に上げて、ライブドアの粉飾決算に責任を押しつけているように見えるから。誰かに強制されて株を買ったわけではなく、最終的に「買う」と決めたのは自分の判断なのだから、それに付随する結果についても、自分で応分に引き受けるのが筋ではないかと思う。
もっとも、「材料が出ました !」「またまたサプライズ !」「ライブドアが日本を変える !」と意味不明な煽りを入れまくっていた有名株主、そしてライブドアを「改革の旗手」といわんばかりに持ち上げていたマスコミの責任も大きい。しかし、それはあくまで判断材料に過ぎないので、最終的に自分でライブドア株の購入を決断したという事実に違いはあるまいに。
どうせ訴えるなら、その対象は、ライブドアのことを意味もなく持ち上げて煽った人達の方が先なのでは ? 「判断ミス」の主要原因は (財務諸表や有価証券報告書ではなく) そういう煽り屋さんにあるのだろうし。
さらにいえば、ライブドアが配当を出していないのは秘密でも何でもない。つまり、ライブドア株で経済的利得を得るには、購入した価格以上に株価が上昇してキャピタルゲインを得る必要がある。ありていにいえば、自分が買った値段よりも高い値段で別の人に買わせることで利益が実現している。(市場が利益の発生源、という点では、ストックオプションにも似た部分がある)
だから、株価が永遠に上昇し続けるという「あり得ない状況」が現出しない限り、絶対に誰かがババを引くのは子供でも分かる。日々の売り買いで利益を出すしかないのだから、デイトレーダーの標的にもなりやすい。しかも「サプライズ依存型の劇場型株式」なのだから、ちょっとしたイベントで激しく上げたり下げたりする可能性があるのは分かり切ったこと。
そんな鉄火場みたいな株に手を出しておいて、暴落した途端に泣き言をいうなといいたい。「爆上げ」で大儲けできる可能性があるということは、「爆下げ」で大損するリスクを伴っているということ。そもそも、その「爆上げで大儲け」を突き詰めれば、早く株を買った人が後から買った人から利益を分捕るという行為。
しかもや、ほんの数年前に「IT 関連株バブル」という馬鹿げた先例があったのだ。あのときにも、「企業の将来性」に対する「漠然とした期待感」だけで株価が上がりまくって、その挙げ句に臨界に達したところで爆発して大損した人がたくさん出た。今では「ビットバレー」なんていうと笑い話のネタにすらならない。そういう悪しき前例があるのに、なんでまた期待感に縋ってライブドアなんぞに手を出したのかと。
以下余談。
身も蓋もないことを書くと、粉飾していようが上場廃止になろうが、株価が下がらなければ損失は出ない。となると、「被害者の会」とは実のところ、「ライブドア・ショック」とやらで狼狽売りして株価下落の原因を作った人から被害を受けた、という意味になってしまう。株式売買による利益が株主同士の収奪合戦なら、損失の場合も同じことなわけで。
…ということは、「被害者の会」はライブドア株を売っちゃった人を訴えるのが筋 ? (←さすがにこれは暴論だ)
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